地域医療連携

病診連携勉強会

心血管カテーテル治療 最近の進歩について

【テーマ】
心血管カテーテル治療 最近の進歩について
【講演者】
循環器内科 主任医長 曽村 富士

はじめに

近年の循環器疾患治療の進歩は著しく、特に心血管カテーテル治療の進歩には目を見張るものがある。不整脈に対するカテーテルアブレーションや植え込みデバイス、先天的心疾患や弁膜疾患など構造的異常に対するカテーテル治療の進歩もホットな話題であるが、本日は虚血性心疾患に対する経皮的冠動脈インターベンションについてお話しする。

PCIの歴史

PCIは1980年ごろ世界で初めて行われ、当初は単純にバルーンで冠動脈を拡張する不十分なものであったが、次々に直面する課題を克服する形で進化を重ね、現在では冠動脈疾患治療法として確固たる地位を築くに至った。この間1990年代にステント、2000年代にはステント再狭窄に薬剤溶出ステント(DES)が臨床適用され、その他様々な技術革新がPCIの進歩を支えた。

CAD Treatment Evolution
POBA (1980年代~)

PCIの合併症

ステント血栓症は抗血小板薬の適正使用とIVUSを使用した適正留置により解決した。また通常金属ステント(BMS)で問題となったステント再狭窄はDESの導入により著明に抑制され、急激にその使用は拡大した。しかし一方でごく低頻度ではあるがステント留置後数年以上を経過した後まで起こる超遅発ステント血栓症やLate-Catch-up現象の存在が認識され、DESを中心としたPCIのアキレス腱となっている。新たな世代のDESには様々な改善が加えられ治療成績は向上しているが、極めて低率ながらその安全性懸念は完全には払拭されていない。

Bare Metal Stent; BMS
薬剤溶出性ステントの構造

EBMと適正治療

COURAGE試験において安定狭心症に対し至適薬物治療にPCIを加えても死亡あるいは心筋梗塞の非発生率を改善しないとされPCIの予後改善効果に疑問が呈された。この研究では薬物治療群にPCI施行例が含まれる一方、PCI群に虚血が証明されないPCI適応外症例が多く含まれるなどの問題点があるとされた。FAME試験ではFFR(冠血流予備能)計測により虚血が証明された症例においてはPCIが主要心血管イベントを抑制することが示され適正な症例選択が重要と考えられた。DESの普及により従来冠動脈バイパス手術(CABG)適応とされる病変に対してもPCI適応が広がる可能性が検討され、第一世代DESを中心とした検討では三枝病変においてはCABGがPCIに比べて有意に心血管イベントが少ないが、左主幹部病変ではPCIがCABGに対し非劣性であることが示された。
高齢化と技術革新による症例増加と治療高度化による医療費増大を背景に、長期予後改善をめざした適切な治療選択が求められている。DESを中心としたPCIの成績は良好だが、虚血の有無やその範囲を検討し治療すべき病変を選択し、病変形態や患者背景から適切に治療方針を決定し、択長期予後確保のため慎重な長期管理を行うことが重要である。

新世代の冠動脈治療デバイス

Bioresorbable Vascular Scaffold (BVS) A New Paradigm

ステント再狭窄例に対するPCIにおいて薬剤被覆バルーンの通常バルーンに対する優越性やDESに対する非劣性が示され最近臨床使用が可能となった。遅発血栓症や血管機能低下などわずかに残る薬剤溶出ステントの懸念は異物であるステントが永久留置されることにより、生体吸収性血管内支持構造物(BVS)の開発が進められている。DESで実績のある再狭窄抑制薬剤を含有する生体吸収性ポリマーでコートされた、生体吸収性乳酸樹脂で作られ、約2年間で完全に吸収され消失する。海外では既に臨床使用され我が国でも2015年度中には使用可能となると見込みである。

まとめ

デバイスの開発、臨床応用と課題の出現、改良と新たなデバイスの開発による克服を繰り返し、PCIは過去約30年間で大幅な進歩を経験した。多くの課題が克服されたがなお解決困難な課題や限界が残存している。また長期予後の改善のため適切な治療適応の決定や治療法選択が重要である。今後もPCIは進歩を続け残された課題を克服しより優れた治療法となることが期待される。