地域医療連携

病診連携勉強会

糖尿病合併CKD治療の展望

【テーマ】
糖尿病合併CKD治療の展望
【講演者】
腎臓内科 主任医長(科長) 森田 良樹

我が国は2025年には5人に一人が後期高齢者になるといわれ、また糖尿病およびCKDも高齢化がすすんでいる。一方、透析人口は2014年末約32万人で、その原因疾患第1位の糖尿病性腎症は漸く減少傾向が見え始めているが、透析人口にも高齢化の波が押し寄せている。このような状況で将来高齢化がすすんだ場合、糖尿病合併CKDにはどのような状況が予想されるであろうか?糖尿病の合併症は、微小血管の3大合併症と大血管の合併症、それに加えて認知症、骨粗鬆症など数多く知られているが、その原因はAGE蓄積が代表である。インスリン作用不足や低血糖が認知症発症に影響し、また骨粗鬆症にもAGEは骨質の低下をもたらし骨折のリスクを上昇させる。主要な合併症だけでなく、高齢化を迎え、寝たきり予防対策のためにも、認知症の診断、骨粗鬆症の程度を理解するためにも脳血流シンチやDEXAといった検査は有用である。糖尿病診療において血糖コントロールは、動脈硬化と非常に関連しており、食後血糖を重視した質の良いコントロールが重要である。CKDにおけるCVDリスクは原疾患が糖尿病である場合、腎炎に比べ6倍のリスクであり、また糖尿病においてはeGFR60ml/分未満でかつ顕性アルブミン尿を呈する患者はeGFR60ml/分以上で正常アルブミン尿と比べ6倍のリスクといわれている。これまで多くの疫学調査の報告でも、アルブミン尿または蛋白尿の存在は末期腎不全だけでなくCVDのリスクと関連している。そこで、糖尿病においてCKDの原因が糖尿病性腎症であるか否かと腎症の病期を理解することは治療上重要である。無症状である、あるいは治らないものと放置すれば顕性腎症になってから治療介入をしても手遅れであり、微量アルブミン尿の早期腎症の時期にしっかり治療に取り組むことが重要である。それでは、アルブミン尿がでることがどうしてCVDリスクと関連するのであろうか?東北大の伊藤先生らのStrain Vessel仮説によれば、重要な臓器に共通していえることは高い圧から臓器を守るため大血管から90度に細動脈が解剖学的に延びている。腎臓では弓状動脈の近傍の糸球体が細動脈傷害を受けやすく、それらの糸球体からアルブミンが漏出することが確認されており、弓状動脈から遠くの糸球体は糸球体高血圧をおこすことなくアルブミン尿は漏出しない。このようにアルブミン尿の存在は全身臓器において血管障害が潜在していることを示しているものである。糖尿病治療において、最近SGLT2阻害薬が腎症進展やCVDイベントの発症を抑制したことが話題となっている。この薬剤は糖尿病のTGフィードバック障害を改善し輸入細動脈を収縮することにより糸球体高血圧を改善し、GFRの低下を抑制すると考えられている。糖尿病治療では血圧コントロールも重要で、JSH2014において診察室血圧130/80未満の降圧目標と、家庭血圧の重要性が確認されている。糖尿病は典型的な老化のモデルと考えられるが、CKDは非糖尿病でもなぜ予後不良なのであろうか?1997年黒尾らによりKlothoマウスが報告され、このマウスの表現型はまさに老化そのものであることから、早老マウスモデルであり、Klotho遺伝子は老化抑制遺伝子と考えられるようになった。その表現型は透析患者とほぼ同様の病態であることと、透析患者の老化に高リン血症が関与していて、FGF23というリン利尿ホルモンがCKDの病態に重要であることが報告された。その後FGF23欠損マウスとKlothoマウスが同じ表現型を示したことから研究が加速し、KlothoはFGF23受容体と共受容体を形成していることが証明された。すなわち透析患者は究極の老化のヒトのモデルであり、KlothoやFGF23がそれに関与していて、それはCKDの頃から既に進行していて、CKDは老化モデルと考えて良いという考え方が当たり前になってきた。今後の高齢化社会では糖尿病という老化をきたしやすい疾患とCKDの合併は老化促進をきたす典型的病態という理解のもとに、単に腎機能低下と考えるのではなく、CKDを進行させないことがイコール老化を防ぐこと、命を守ることに繋がるという見方をしていかなければいけない。