手のしびれ、痛み
~手根管症候群と腱鞘炎を中心に~
手外科について
手の中には、運動器外科に関するあらゆる組織(骨・腱・神経・血管)があり、小さなスペースにこの多様な組織が近接して存在しています。手外科は整形外科の一分野ですが、上肢再建外科と言うこともできます。新鮮外傷の治療により発展してきましたが、中でも第二次世界大戦中に米軍負傷兵の上肢の外傷の治療にあたり、その経験を本にまとめたS.Bunnell先生は「手の外科の父」と呼ばれています。日本では1957年に日本手の外科学会が設立され(2010年に「日本手外科学会」に改称)、20世紀後半の顕微鏡を使った微小外科(マイクロサージャリー)が発展し、切断指の再接着や複合組織移植などが行われるようになってきました。
手外科が扱うのは手指や手関節はもちろんですが、肘や上腕骨折のなど上肢全体を対象とします。腕神経叢の移植手術も限られた施設になりますが、手外科医が担当しています。対象疾患は、骨折や脱臼、指の切断などの外傷、神経障害、関節炎・腱鞘炎、変形性関節症、腫瘍、先天異常などです。
手のしびれ
上肢のしびれは上肢の神経障害と考えられます。しびれの持続時間、部位・範囲、上肢以外のしびれの有無などで障害部位の鑑別をしていきます。末梢神経障害以外の原因としては一過性の血行障害、頚椎疾患や神経内科領域の変性疾患、脳腫瘍や脳血管障害などが考えられます。
手外科で扱う上肢のしびれの原因として代表的なものが絞扼性神経障害です。関節部では末梢神経が靭帯または筋起始部の腱性構造物により構成された線維性、骨線維性のトンネルを通過しますが、この部に何らかの原因で慢性の異常刺激が加わった時に起こる神経障害が絞扼性神経障害です。肘で尺骨神経が圧迫される肘部管症候群、手掌部で正中神経が圧迫される手根管症候群、頻度は少ないですが手掌部で尺骨神経が圧迫されるGuyon(ギヨン)管症候群などがあります。
手指の痛み
手指の痛みの原因となる組織には骨・関節、腱・腱鞘、神経、筋、血管があります。関節由来の痛みの代表例が指のへバーデン結節(DIP関節)、ブシャール関節(PIP関節)、母指CM関節症など変形性関節症です。装具などの保存的治療が中心ですが、関節固定などの手術療法を行うこともあります。突き指後になかなか治らない痛みは骨折や靭帯損傷が隠れている場合もあります。
腱鞘炎は指の痛みの代表疾患であり、狭窄性腱鞘炎がほとんどを占めますが、感染によっておこる化膿性腱鞘炎は早期の切開排膿が必要です。絞扼性神経障害の症状はほとんどがしびれですが、痛みとして感じる場合もあります。閉塞性血栓性血管炎や閉塞性動脈硬化症は虚血による痛みを感じることがあります。
手根管症候群
横手根靭帯と手根骨で構成される手根管を通る正中神経が、滑膜炎や腫瘤、外傷などの原因により持続的に圧迫されることで生じます。母指~環指橈側のしびれ、つまみ動作がしにくいといった症状が出現します。上記症状に加え理学的所見(Tinelサイン、Phalenテスト)、神経伝導速度、超音波検査などで診断します。軽度の場合はビタミンB12などの内服薬で経過をみますが、母指球萎縮がある場合は保存的治療では改善が見込めないことが多く、手術療法を行っています。手術は主に鏡視下手根管解放術を行っていますが、症例によっては大きく切開して直視下で行う場合もあります。
腱鞘炎
何らかの原因で、腱が通るトンネルとなる腱鞘が炎症を起こして肥厚・狭窄し、そこを通る腱がスムーズに通過出来なくなった状態が腱鞘炎です。屈筋腱の腱鞘炎が弾発指(ばね指)、母指の伸展・外転にかかわる伸筋腱の腱鞘炎がドゥケルバン腱鞘炎です。
弾発指は指のつけ根の腫れや痛み、ばね現象が初発症状で、進行すると指の屈曲・伸展障害をきたします。糖尿病、透析患者は多数指罹患の傾向があります。ばね現象、MP関節掌側の圧痛などの所見で診断しますが、超音波検査も行っています。トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトーA®)の腱鞘内注射が著効しますが、腱および腱鞘の皮下断裂の報告があるため2-3回行って改善が認められない、繰り返す症例は腱鞘切開術を行っています。
ドゥケルバン腱鞘炎は短母指伸筋腱と長母指外転筋が通る第一背側区画の狭窄性腱鞘炎で、橈骨茎状突起付近の疼痛、物をつかんだりタオルを絞るといった動作ができないといった訴えがあります。母指を軽く握って手関節を尺屈すると橈骨茎状突起部に痛みを生じるテストが知られています(Eichhoffテスト)。保存療法は弾発指同様、トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトーA®)の腱鞘内注射を行います。弾発指に比べて手術療法に至る例は少ない傾向があります。
まとめ
手外科の概略、手指の痛み、しびれ(絞扼性神経障害)、手根管症候群、腱鞘炎についての話をさせていただきました。外傷、手根管症候群、腱鞘炎などお困りの症例についてはご紹介いただき、連携して治療にあたっていきたいと思います。