糖尿病治療薬の選択と適正使用について
日本における糖尿病治療の現状
国民健康・栄養調査によると、近年、糖尿病患者(糖尿病が強く疑われる者)は増加の一途を辿っており、糖尿病予備群(糖尿病の可能性を否定できない者)も含めると、平成24年は2050万人に達します。その原因の一つに肥満があります。日本人のBMIは、男性では増加の一途であり、糖尿病患者でみるとBMIは男女とも増加傾向であり、2013年には男性2型糖尿病患者の平均BMIは25でした。一方、糖尿病患者のHbA1cは、管理の進歩、治療薬の開発等により年々低下しており、2013年には2型糖尿病患者で平均HbA1c:6.9%と辛うじて合併症予防のための血糖コントロール目標を達成しています。治療法の変化としては、インスリン治療の割合が減少傾向にあり、これは2009年に上市されたDPP-4阻害薬の使用が増加したことが一つの要因と考えられます。
2型糖尿病の治療原則
2型糖尿病の治療は、食事療法、運動療法、生活習慣改善に向けての患者教育に始まりますが、これは経口糖尿病薬による治療や、インスリン治療が開始となった後も常に治療の根幹をなすものです。栄養士や看護師による指導等が行えるとよいですが、日常診療でも行いやすい管理方法としては、体重管理が勧められます。
各糖尿病治療薬の特徴
勉強会では、国内で上市されている全ての治療薬について概説しましたが、ここでは特に利用の幅が広く使いやすいと考えられるDPP-4阻害薬と、昨年発売されたSGLT2阻害薬に絞って紹介します。
DPP-4阻害薬
摂食により腸管から分泌されるインクレチン(GIP, GLP-1)の分解を防ぎ、血糖応答性のインスリン分泌を増強し、血糖値を低下させます。インクレチンを含む消化管ホルモンには、消化管運動抑制など、様々な膵外作用もあります。また、インクレチンを介さない抗動脈硬化作用も報告されています。DPP-4阻害薬は、GLP-1作動薬以外の殆どの薬と併用可能で良好な血糖降下作用を示し、また単独では低血糖を起こししにくく、使いやすい薬剤です。膵炎・膵腫瘍の患者では、複数のメタ解析のプール解析等で有意差がなかったという報告もあり、病態を悪化させるかどうかという点では賛否両論で、結論が得られていません。
DPP-4阻害薬 各薬剤の特徴
SU薬との併用時は、血糖降下作用が増強されるので、低血糖に注意し、SU薬を減量します(Recommendationを参照)。腎・肝機能に関する注意点としては、ビルダグリプチン(エクア)は重度の肝機能障害では禁忌・肝機能障害で慎重投与、また、テネリグリプチン(テネリア)は重度の肝機能障害で慎重投与となっています。一方、腎機能障害でも減量不要な薬剤として、テネリア、リナグリプチン(トラゼンタ)があります。
また、糖尿病患者で合併しやすい高脂血症に対する効果が期待できる薬剤もあります。アナグリプチン(スイニー)がLDL-コレステロール低下作用を有しています。総コレステロール値の低下作用はエクア・アログリプチン(ネシーナ)で報告されています。
今後、週1回製剤が市販される予定となっています。トレラグリプチン(ザファテック:武田薬品)が近日発売予定で、オマリグリプチン(MSD)も予定されています。
SGLT2阻害薬
グルコースの再吸収の9割を担う、腎近位尿細管におけるナトリウム依存性グルコース共輸送担体2(SGLT2)を選択的に阻害し、尿中グルコース排泄量を増加させて血糖降下作用を示します。2014年4月のイプラグリフロジン(スーグラ)発売から、現在6種類の薬剤が発売されており、一部の薬剤では長期処方制限が解除されています。こちらも、単独使用では低血糖を起こしにくく、また、体重減少効果が期待できる薬剤です。しかし、皮疹や尿路・性器感染症、脱水による血管イベントなど、注意すべき副作用もあります。「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」からのRecommendationが参考になります。
各薬剤間の差異としては、皮疹の報告はスーグラがやや多いほか、SGLT2に対する選択性、作用時間の差がみられます。
カナグリフロジン(カナグル)・スーグラはSGLT2選択性がやや低く腸管や腎に存在するSGLT1に若干作用しますが、トホグリフロジン(デベルザ・アプルウェイ)・ルセオグリフロジン(ルセフィ)・エンパグリフロジン(ジャディアンス)は選択性が高いとされています。しかし、その効果の差異については結論が得られておらず、また、いずれの薬剤もSGLT2に対する阻害効果は十分と考えられます。
後者のデベルザ・ルセフィ等は作用時間が短く、その分夜間頻尿はやや少ないようですが、前者のカナグル・スーグラはやや長時間作用するため夜間尿が若干多めのようです。
各糖尿病治療薬の選択
インスリン分泌能が著明に低下している患者(インスリン依存状態)ではインスリン注射が必須ですが、そうでなければ、体型(肥満かどうか)、早朝空腹時血糖値の上昇が見られるかどうか、等の点で薬剤を選択していくのがよいでしょう。
例えば、明らかな肥満(BMI上昇)または内臓脂肪(腹囲増大、脂肪肝等)あれば、可能な範囲でメトホルミンと、経過によりピオグリタゾン(アクトス)を使用し、HbA1cが高い場合はDPP-4阻害薬を併用、不十分であれば、GLP-1アナログ使用も考慮していきます。
治療薬の選択や、栄養指導、糖尿病療養指導が十分に出来ないなど、お困りのことがありましたら外来通院や週末2泊3日入院なども行っていますのでお気軽にご相談いただければと思います。