PSAを用いた前立腺がんスクリーニング
前立腺癌は欧米人に罹患する頻度の高い疾患で、米国における癌罹患率は男性の中で1位、死亡率は肺がんに次いで2位となっています。本邦においても前立腺癌患者は年々増加傾向で、2025年には男性の悪性腫瘍の罹患者数で第1位になると予想されています(図1)。また、この時期には男性の生涯罹患リスクは13%と予想されており、これは男性6-7人に一人が罹患する計算になります。このように将来の高齢化社会に伴って前立腺癌患者の増加が問題となっています。
一般的に前立腺癌は外腺から、前立腺肥大症は内腺から発生します。尿道に隣接した内腺から発生する肥大症は排尿症状が早く出現しますが、前立腺癌はある程度進行しないと排尿症状を来さないため、早期の段階で発見するためには症状が出現する前にいかにスクリーニングを行い前立腺癌を発見するかが重要となります。また、前立腺癌の治療は限局性であれば手術療法や放射線療法によって根治が期待できるのに対して、転移性の進行癌であれば内分泌療法が中心となり再燃をきたし予後が不良となります。そのため、前立腺癌による死亡率を低下させるためには、可能な限り早期の段階で発見し、根治的治療を行うことが必要になってきます。
前立腺癌のスクリーニングとして我々泌尿器科医が行っているのはPSA測定、直腸診、経直腸エコーなどですが、やはりPSAが一番精度が高く、信頼のおけるスクリーニング法です。PSAは精液の液状化に関与する蛋白で、前立腺に特異性のある腫瘍マーカーです。 図2はPSA毎の前立腺癌陽性率を示していますが、PSA値が高くなればなるほど陽性率は高くなる傾向にあります。
しかしながら、PSAの異常値は4以上とされていますが、4-10ng/mlのいわゆるグレーゾーンでは2-3割の陽性率に留まり偽陽性が存在することが問題となっています。偽陽性の原因としては前立腺肥大症、前立腺炎、尿閉症、尿道カテーテル挿入など様々なものが存在します。
そのため、PSAの感度を少しでも高くする工夫として様々な試みがされています。代表的なものとしては、体積依存性パラメーターや時間依存性パラメーターが挙げられます。体積依存性パラメーターは前立腺肥大症が高度になればなるほどPSAが高値になる傾向があることから、体積の影響を無くすためにPSAを体積で除するPSA density(PSAD)を用いるというものです(図3)。PSADのカットオフ値が0.15と定義されており、例えば2人の患者さんが同じPSA値8ng/mlでも、一方が前立腺体積が20ccであるのに対して、もう一方の患者さんが80ccであったとすると、PSADは20ccの患者さんは0.4と、カットオフ値の0.15を大きく超えるため前立腺癌が強く疑われ、一方では20ccの患者さんはPSAD0.1で癌の疑いは低くなります。次に時間依存性パラメーターもPSAの感度を高くする工夫の一つです(図4)。PSA velocityとPSA倍加時間があり、癌は増殖するため、PSA値がどんどん上昇しても、肥大症では高いままで増加しないといった原理を利用したものです。PSA velocityは1年間におけるPSAの上昇度で表わされ0.75ng/ml/yearが正常値と言われ、PSA倍加時間は2-3年以内であれば臨床的に意義のある癌である可能性が高いと言われています。
以上、今後ますます増加すると予想される前立腺癌に対して、予後の改善を図るためには、症状の発現しない早期の段階でスクリーニングすることが重要であり、そのためには定期的なPSAの測定が必要で、特に上昇傾向を示す場合は泌尿器科医での精査が望まれます。