糖尿病食事療法の新しい考え方
~食品交換表第7版改訂のポイントについて~
糖尿病の治療には食事療法、運動療法、薬物療法(経口血糖降下薬、インスリン注射など)の3つの方法があります。
食事療法はどのような治療をしている人でも必ず行わなければならない治療の基本です。
日本糖尿病学会は2013年熊本にて、糖尿病の合併症を予防するためには「HbA1cを7%未満に保ちましょう」と宣言しました。同時に、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合や、薬を使っていても低血糖などの副作用なく達成可能な場合は、HbA1c6%未満を目指すことも宣言しています。
2型糖尿病では、食事療法だけで血糖値が適正な範囲内に保たれることもあります。薬物療法を併用する場合でも、食事療法をしないと低血糖・高血糖をおこし、適正な範囲内に血糖値を保つことは難しくなりますので、この食事療法はすべての糖尿病治療に欠かせません。
今回、糖尿病患者さんのための食事療法のテキストにあたる「糖尿病食事療法のための食品交換表」(編著:日本糖尿病学会、発行所:文光堂)が11年ぶりに改訂され2013年11月1日に発行されました。
「食品交換表」は1965年に発刊されて以降48年間という長い歴史があります。前回の改訂は2002年で、今回は11年ぶりの改訂になります。
最近、糖質だけに目を向けた糖質制限食のブームがありますが、糖質制限をすればするほど、三大栄養素のバランスが崩れかねません。食事からの炭水化物の適正な摂取量に対する社会的関心の高まりを受けて、日本糖尿病学会では2013年3月に「食事療法に関するシンポジウム」を行い、食事の中の糖質量に対する提言を発表しました。この「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」では、糖尿病における炭水化物摂取について、総エネルギー摂取量を制限せずに炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは、長期的な食事療法の遵守性や安全性を担保するエビデンスが不足していて現時点では認められないと発表しています。
そして糖尿病での三大栄養素の一般的な推奨摂取比率は、日本糖尿病学会からの「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」に従って、「炭水化物50~60%エネルギー(150g/日)、たんぱく質20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする」としました。
また、糖尿病腎症などの合併症の有無や他の栄養素の摂取比率・総エネルギー摂取量との関係の中で、炭水化物の摂取比率をある程度増減させることを考慮してもよい、としています。
そして、食を楽しみながら食事療法を実践、継続していくことを勘案すると、日本人がこれまで培ってきた伝統的な食文化を基軸として、かつ現在の食生活の変化にも柔軟に対応していくことが重要としています。
今回この提言に沿った内容で食事療法の指導ができるように、食品交換表編集委員会において、各関連学会の最新ガイドラインにも準拠して「食品交換表」第7版の改訂が行われました。
糖質制限食については、今まで血糖値だけを重要なポイントとして勧めていた傾向がありますが、食事療法は本来患者さんの嗜好も含め栄養素のバランスを考慮して、患者の病態、合併症の状態などを把握した上で指導を行うことが重要です。食事に占める炭水化物の割合について、従来は60% エネルギーの配分例のみ表示していましたが、この「食品交換表」では炭水化物の摂取量も新たに55%、50%の場合での配分例を示し、炭水化物50~60%の推奨摂取範囲に沿ってそれぞれの症例に応じた柔軟な指導が行えるようになっています。
ただ、炭水化物55%以下にしてしまうと相対的にたんぱく質過剰となり、特に腎症2期以上の患者さんについては体重1kgあたり1.2g以上のたんぱく質の配分になってしまい、さらに脂質も増えるため使用できません。
そのため患者さんが自分の病状に合った単位配分を知らないと、合併症の進展など逆効果となる場合があり、患者さんは医師・管理栄養士から最適な配分などの指導を受ける必要があります。
名古屋セントラル病院では①管理栄養士による栄養指導、②2泊3日食事療法体験入院、③健康セミナー「糖尿病のつどい」で「3・1・2弁当箱法」を取り上げるなど医師・管理栄養士・糖尿病療養指導士が協力して食事療法の取り組みを行っております。
最近では新しい作用機序の血糖降下薬やインスリン製剤などが次々に登場し、糖尿病薬物治療の選択肢が広がってきていますが、どんなによい薬を使っていても、治療の基本となる食事療法が守られなければ良好な血糖コントロール、合併症の進展予防は得られません。
今後も地域のかかりつけ医の先生方との適切な連携にて、患者さんにとって最適な糖尿病診療をすすめてまいりたいと存じますので、ご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。