地域医療連携

病診連携勉強会

脳卒中
~脳梗塞の急性期から慢性期まで~

【テーマ】
脳卒中~脳梗塞の急性期から慢性期まで~
【講演者】
神経内科 副医長 林佑希子

三大疾病とよばれるうちのひとつ、脳卒中。平成23年の主要死因別死亡率第3位は肺炎にとって変わられたものの減少しているわけではない。脳卒中は寝たきりとなる最大の原因であり、また介護が必要となる疾患である。さらには一度発症すると治療入院期間は長くなり、入院受療率や医療費が高くなる疾患である。よってまずは脳卒中の一次予防が重要であり、発症した場合もいかに後遺症をへらし自立できるようにしていくか、また再発を防いで、ADLを低下させないようにするかが課題となる。

脳卒中は大きく脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つに分けられる。かつては脳出血が脳卒中の3/4を占めていたが、近年その割合がかわり、脳梗塞が脳卒中全体の約7割を占めている。高血圧対策の普及や生活習慣の変化による糖尿病や脂質異常症の増加が考えられる。現在でも我が国では年間9万人弱の方が脳梗塞で亡くなっている。

図1にしめすような症状をみたとき、脳卒中を考慮しなければいけない。脳卒中はいかに軽症であっても緊急症として対処すべきである。最近では、発症後4、5時間以内の脳梗塞に適応のある血栓溶解療法が急性期治療の選択肢として含まれるため、それを念頭においた迅速な対応が必要である。なお、一過性脳虚血発作(TIA)についても同様である。TIAは脳梗塞の前兆であり、TIAを起こすと3ヶ月以内に10-15%が脳梗塞を発症するが、その半数が48時間以内であると言われ、その発症リスクをABCD2スコア(図2)で評価する。TIAを疑ったらすぐに専門病院へ紹介し、迅速な原因検索と治療をすべきである。『脳卒中治療ガイドライン2009』にも「TIAを疑えば、可及的速やかに発症機序を確定し、脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始しなくてはならない」とある。

脳卒中を疑うべき「5つの症状」
TIA後の脳卒中発症リスク評価
tPAの適応症例(添付文書より)

脳梗塞が疑われる場合には、頭部CTや頭部MRIによる病巣の評価を行う。また血管の評価、心臓の評価も可能なかぎり早期に行う。必要におうじて脳血流検査、凝固線溶系検査なども行う。図3に示すような血栓溶解療法の適応があると判断したならすみやかに治療を開始する。一般に脳梗塞急性期治療では臨床病型によって使用する薬剤が違ってくるため早急にその病型を診断する必要がある。その点滴治療に並行し早期にリハビリテーション(リハビリ)も開始していく。通常、発症から1ヶ月程度は急性期病院でリハビリとなる。約6割は直接自宅に退院できるが、3割は回復期リハビリ病院への転院が必要となる。約1割は療養型病院などへの転院を余儀なくされる。回復期リハビリ病院では数ヶ月の集中的リハビリを受け6-7割は自宅退院となるが、2割は医療機関へ転院し、1割は老人保健施設等に入所となる。機能回復途上で自宅退院となった場合は、通院リハビリ・訪問リハビリによって更なる機能回復を図る必要がある。機能回復が頭打ちになって自宅退院する場合は、機能低下が生じないように、通院リハビリ、通所リハビリ(デイケア)、訪問リハビリを活用する。通院リハビリは医療保険、通所リハビリと訪問リハビリは介護保険でカバーされる。どのような状態で退院するにしても、ADL維持のため、リハビリの継続ができるような環境づくり、患者・家族へのサポート、声かけが必要であり、退院後の過ごし方について、退院前に主治医、看護師、ケースワーカー、ケアマネージャーなど多職種が集まってカンファレンスを開催し、話し合って決めるのが望ましい。
脳梗塞を発症した場合、運動機能以外の後遺症にも苦しむことが少なくない。嚥下障害・誤嚥性肺炎、痛み、パーキンソン症候群、うつ状態、認知症、症候性てんかん、排尿障害など数々の症状がおこりうる。薬剤の調整によってそれらは改善されることもあり、困った場合は病診連携を利用して専門科にご相談いただけるとよいと思われる。

脳梗塞の再発予防

さいごに、脳卒中は再発予防が肝要である(図4)。かかりつけ医、介護保険スタッフなどと連携し、脳卒中の予防と患者・家族のサポートを行っていく。抗血小板薬や抗凝固薬を投与するだけでは不十分であり、生活習慣の指導、危険因子の対策も行っていかなければならない。禁煙は必須、飲酒は適量を心がけるよう指導する。肥満や運動不足も問題となる。心臓病や睡眠時無呼吸症候群を合併している場合も脳卒中の危険性が高いといわれているため、問診上疑われる場合には、専門外来の受診もおすすめしたい。
当院では神経内科、脳神経外科と協力し24時間体制で脳卒中の対応にあたっている。脳卒中を疑った場合、ぜひご相談いただき、また退院後はかかりつけ医の先生方にお願いするといった連携を続けていきたいと考えている。