地域医療連携

病診連携勉強会

関節リウマチ診療の最近の話題

【テーマ】
関節リウマチ診療の最近の話題
【講演者】
整形外科 主任医長(科長) 騠木 英希

平成25年2月9日(土)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

関節リウマチ(RA)診療は、関節破壊の経過に対する認識の変化とターゲットが明確な新規RA治療薬の登場により、治療目標が大きく変わってきた。従来は炎症の鎮静化による生活の質(QOL)の維持を目標としていたが、最近では早期からの寛解導入による関節破壊の防止が目標となった。RAの早期診断・早期治療を推進するために新分類基準や新寛解基準が再定義され、治療目標を定めた治療(Treat to Target)が提唱されるなど、RA診療を取り巻く環境もかなり整備されてきた。

2010年にアメリカリウマチ学会(ACR)および欧州リウマチ学会(EULAR)合同で発表された新分類基準(図1)は、他の疾患では説明不可能な最低1ヶ所以上の関節腫脹があることを前提に作成されており、血清学的因子(RFまたは抗CCP抗体)に対して高いスコア配分がされている。日本リウマチ学会(JCR)で検証された結果、診断感度は良好(1987年の旧分類基準の50%弱から75%へ向上)であるが、特異度はやや低下しており、他疾患との鑑別が重要と結論された。偽陽性が多くなる可能性が高いこと、血清反応陰性の大関節罹患型は診断困難なことなど留意する必要がある。個人的には、関節エコーや造影MRIなどの画像診断がこの基準に加えられるとより良くなると考えている。

2011年に発表されたACR/EULAR新寛解基準(図2)は、かなり厳しい基準となっている。特にBoolean寛解は、腫脹関節数、圧痛関節数、患者全般VAS、CRPの4項目すべてにおいて1以下を満たすことが条件となっており、長期罹患患者での達成は患者VASにおいて困難となることが多い。最近の臨床現場では、SDAI(Simple Disease Activity Index)を用いた評価が主流となりつつある。複雑な計算を要するDAS(Disease Activity Score)と違い、医師全般VASをいれた5項目の単純な足し算であるところが受け入れられているのだと思われる。

このように診療の入口と出口が定められた後、途中の道順を示すべく目標達成に向けた10項目のRecommendationも発表され、厳格な管理が推奨されている。ここでは、RA治療の目標が臨床的寛解の達成であることが再確認された。ただし現時点では、進行した患者や長期罹患患者では、低疾患活動性が当面の目標になりうるとされた。また、治療目標が達成されるまで薬物治療は少なくとも3ヶ月ごとに見直すべきものとされ、目標が達成された後もその状態を維持するように評価、調整が求められている(図3)。

RA診療を取り巻く環境が変化した最大の要因は、やはり新薬の登場であるが、その第1の薬剤にメトトレキサート(MTX)を挙げたい。RAに対しては1960年代から一部の専門家により使用されていたものの、本邦で認可されたのは欧米に10年遅れた1999年である。RA治療薬として明確なターゲット(滑膜細胞の増殖抑制など)を持った初めての薬剤である。2011年には第1選択薬として、また用量も週16㎎まで使用可能となった。同時に投与前に注意すべき項目も再確認された。それは、肝炎の既往(特にB型肝炎)、結核の既往、さらに間質性肺炎、感染症、腎機能障害の有無である。これらの項目は投与前確認だけでなく、投与後も定期的に評価・確認する必要がある。

次に挙げるべき薬剤はRA治療における生物学的製剤(BIO)の先駆けとなったインフリキシマブおよびエタネルセプトである。いずれもTNFαの作用阻害薬であるが、効果発現の早さや効果の大きさは絶大で、点滴投与中から効果を自覚できたり、身動きできなかった患者が歩けるようになったりするなど従来の抗RA薬(DMARDs)では考えられない効果がある画期的な薬剤である。その後さらに3剤のTNF阻害薬(アダリムマブ、ゴリムマブ、今年3月発売となったセルトリズマブ)、IL-6受容体抗体であるトシリズマブ、T細胞の活性化を阻害する受容体製剤であるアバタセプトが次々に本邦で使用可能となり、平成25年3月現在BIO7製剤の時代となった(図4)。いずれも高い有効性は魅力であるが、課題もはっきりしてきた。臨床的寛解達成率が約3割にとどまること、投与中止による再燃の問題が約4割にみられること、長期投与の安全性(感染症、発がん性)がまだ確認できていないこと、そして年間150万円にも上る高額医療費の問題である。このような画期的な薬剤も低所得者や合併症患者には恩恵がないとされているため、何らかの解決策が必要である。
最近ではBIOの次の薬剤として合成低分子化合物(特にJAK阻害薬)が注目されている。細胞外の炎症性サイトカインなどを標的とするBIOと異なり、細胞内で炎症性サイトカインシグナル伝達を阻害する作用をもち、炎症の連鎖を断ち切る新たな薬剤として有効性が報告されている。
今後も次々と新薬が登場し、RA診療を取り巻く環境はさらに大きく変わる可能性があるが、やはりまずしっかりと早期に診断することが求められるであろう。