地域医療連携

病診連携勉強会

320列CTで変わる冠動脈疾患の診断と治療

【テーマ】
320列CTで変わる冠動脈疾患の診断と治療
【講演者】
循環器内科 主任医長(科長) 曽村富士

平成24年10月16日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

当院では本年5月に東芝製320列CT装置『Aquilion ONE』を導入し、冠動脈CTをより低被曝・低侵襲に適応範囲が拡大することができるようになりました。

近年CT装置の進歩に伴い、これまで撮影が難しいとされた心臓・冠動脈を画像化することが可能となり急速な進歩を遂げています。様々な技術革新により心拍動、呼吸変動、ノイズやアーチファクトなど心臓冠動脈撮影を困難にする多くの要素が克服されてきましたが、不整脈による位相ずれや高心拍による時間分解能不足、石灰化やステント内腔の評価困難や、造影剤や放射線被曝などの課題も多く残されてきました。

これらを克服するべく進歩を続ける新世代のCT技術進歩としてDual Source CT (SIEMENS社)では二管球システムとガントリー高速回転によるハイピッチ撮影により高時間分解能と、低被曝を実現し、心電図同期Dual Energy撮影は画質向上や心筋かん流の評価が容易となると期待されています。

今回当院で導入した320列Area Detector CT (ADCT)は16cm幅の面検出器により原理的にバンディング・アーチファクトやヘリカルスキャンノイズから開放され、反復逐次近似法によるノイズ低減技術とあいまって従来比約4分の1という大幅な低線量撮影が可能となりました。同時に造影剤使用量は従来の約半分に、撮影時間も極限まで短縮され息止め不良例や不整脈症例にも対処がしやすくなりました。従来装置では撮影が不可能であった心房細動症例であっても通常の症例と変わらない冠動脈の評価が可能であった実例(図)、ステント内腔評価精度向上の実例(図)を紹介します。

負荷SPECTとの融合画像も可能であり、現在試験進行中のアデノシン負荷冠動脈CTによる心筋パーフュージョン評価とあわせ、冠動脈形態情報と機能情報を統合した評価のモダリティーとして進化が期待されます。冠動脈プラークの評価が可能で診断能の進歩によりACS発症やPCIリスクの予知、薬物による治療介入効果の評価などへの応用が期待されています。
安定狭心症の診断では検査前有病率(米国9学会合同)による中等度リスク例が有用とされ、冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドラインによると、虚血評価の重要性から運動負荷心電図が推奨されています。以上によりリスクを層別化し中等度リスク例や心電図評価・運動負荷検査不能例に対し、施設基準と患者用件が合致すれば冠動脈CTを施行します。急性冠症候群でも高リスク例ではカテーテル検査が優先され除外診断を前提とした中~低リスク症例が適応とされています。

無症状の高リスク例でのスクリーニングとしての冠動脈造影CT検査は従来のガイドラインでは推奨されていませんが。被曝・低侵襲化が進んだ新世代の装置でエビデンスの蓄積とともに適応が拡大する可能性はあると思われます。冠動脈石灰化スコア(単純CT)評価は中等度リスクの無症状例で有効とされ検診や人間ドックにも応用が可能と思われます。

冠動脈CTは非侵襲的冠動脈形態診断法として、冠動脈造影の代用検査として急速に普及しつつあります。320ADCTにより冠動脈CTに心機能・血流・プラーク情報を加えつつ放射線被曝、造影剤使用量、息止め時間が減り、不整脈症例など検査可能な範囲が拡大し、単に冠動脈形態診断法にとどまらない、有用な検査法としての発展が期待されます。先進的な装置の特長を生かし、地域の医療資源として有効活用を提案します。