地域医療連携

病診連携勉強会

新規導入の乳房超音波機器と乳癌の最近の話題について

【テーマ】
新規導入の乳房超音波機器と乳癌の最近の話題について
【講演者】
乳腺・内分泌外科 主任医長(科長) 小林 宏暢

平成24年8月21日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

乳癌の診療について

毎年新たに約5万人以上が乳癌になり、女性のがん罹患数では乳癌が第一位である。他のがんと比べて治りやすいがんではあるが、患者の3割が再発(転移)し、年間で約1万人が死亡している。壮年期(30~64歳)の女性の死因原因のトップとなっている。40代半ばから後半にかけて発見されるケースが多いが、70代、80代の女性にも増え、また、20代、30代の若い世代にまで広がってきている。幅広い年齢層で、全体的に増加傾向である。

新規導入乳房超音波検査装置について

今回当院では自動ボリュームスキャナー(Autmated Breast Volume Scanner, ABVS)という乳房超音波検査装置を新たに導入した。この検査機器は乳がん専用の超音波検査装置で幅15.4cmのプローベが自動で乳房をスキャンし、3次元の超音波画像のボリュームデータを取得する。従来の超音波検査では検査者の技量によりその検出能が決定され再現性が低くなるが、ABVSは乳房全体を隈なく短時間で走査することができ、多数例を簡便かつ短時間で処理することが可能である。取得されたデータからコロナル断面を容易に作成することができ、病変の広がりや位置を手術時と同体位で確認できるため、切除範囲の決定にも役立つ。
また、乳がん検診を受けない理由のうち、マンモグラフィに特徴的だった『痛み』はこの超音波検査ではかなり軽減され、検査を受ける姿勢も仰向けに寝るだけで非常に楽である。エコー検査は被爆がなく受検者の選択の拡大につながる。
従来の超音波検査では検査機器の標準化や検査士自身の検査技術向上にコストや時間がかかり、さらに検査精度は検査時間に影響されやすい。これに対し、ABVSは検診精度が安定し、検査効率が向上するなど経営・管理者側のメリットもある。また、再現性のある画像のため検査者の育成に用いることもよいと思われる。
課題は読影である。通常のエコー検査における検査後の読影は、すでに検査者が病変の検出と形態観察・解釈・判断がかなりの程度までなされているので、医師はそれを追認するのが主な仕事であった。ところがABVSでは、これらがすべて読影する側の責任となる。導入するにあたっては、読影方法の確立とルーチンの変革が重要である。

1.新規導入乳房超音波検査装置

乳癌術後補助療法の考え方

日本人の乳がんの多くは乳管に発生する。がんが管の内側におさまっていれば非浸潤がん、管を取り巻く基底膜を破って外に出ていれば浸潤がんとなる。浸潤がんになると、血管やリンパ管にがん細胞が入り込み、遠隔臓器やリンパ節に転移する可能性が出てくる。
乳癌と診断された患者に対して、原発病巣、および腋窩リンパ節を対象に、外科手術と放射線治療を行う。これらは「局所治療(local therapy)」と呼ばれ、かつては、治療的意義が大きいと考えられていた。
しかし、患者の予後(初期治療後の再発,再発後の死亡)に影響するのは、局所治療の時期や内容ではなく、診断時にすでに存在する微小転移(micrometastases)をいかに制御するか、ということにかかっており、そのためには、術前後に実施される全身的薬物療法が大変重要であるという認識が広まってきた。そのため乳癌の薬物療法の選択には乳癌の解剖学的な広がりよりも癌の生物学的特性に重きをおいて治療を選択するようになってきている。

Intrinsic Subtype分類は乳癌の生物学的特徴を見極めて、薬の効果を予測し、それぞれの乳癌にあった最適な治療を行うために考えられた分類である。cDNAマイクロアレイにより乳癌の遺伝子発現を解析し、生物学的に異なった5つのタイプ、Luminal A, Luminal B, HER2, Basal like, Normal breast-likeに分類する。この分類はホルモンレセプターとHER2(ハーツー)の発現状況によりLuminal A:(ER +,HER2 -)、 Luminal B:(ER +,HER2 +)、 HER2:(ER -,HER2 +)、 Basal like:(ER -,HER2 -)と置き換えて考えることも可能である。術後治療法の選択はLuminal A:内分泌療法(+ 化学療法), Luminal B:内分泌療法および化学療法, HER2:分子標的治療薬+化学療法, Basal like:化学療法と考えるのが基本である。そのほかOncotypeDXやMamma Printなどの乳癌細胞の遺伝子検査をおこない、その患者に化学療法を行うかどうかの判断基準として用いることがあり、海外では化学療法の効果を予測する検査として用いることがガイドライン等に記載されている。

Intrinsic Subtype分類
免疫染色を指標としたサブタイプ分類と治療選択

乳癌患者には『手術のみで治癒する患者』、『手術に薬物療法を加えても治癒しない(再発してしまう)患者』以外に、『手術に化学療法を加えることによって再発を予防できる患者』群があり、これらをより明確にすることによって乳癌治療は『必要とする患者に必要な治療を』というより個別化した治療へと進んでいくと考えられる。