地域医療連携

病診連携勉強会

膵癌治療の最前線

【テーマ】
膵癌治療の最前線
【講演者】
名古屋セントラル病院 院長 中尾 昭公

平成24年2月18日(土)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

日本における癌死亡の推移

本邦における死因の3分の1を癌が占めるに至っており、近い将来、死因の2分の1は癌になることが予測されている。膵癌は消化器癌のなかでも最も予後不良な癌であり、2010年には約28000人が亡くなっている。本邦の癌腫別死因では肺癌、胃癌、大腸癌、肝癌に次いで5番目に位置している。そして毎年死亡数は増加の一途である。膵癌は罹患率と死亡率がほぼ一緒であり、膵癌と診断されることは死を意味すると考えられてきた。

通常型膵癌全症例の生存率推移(JPS2011)

日本膵臓学会(JPS)では1981年より膵癌の全国的予後調査を施行してきた。10年毎にその生存率を計算してみると2001年よりはやや上昇してきている。2001年からは本邦でもゲムシタビンが保険収載され、また最近ではエスワンも適用可能となり、この2つの抗癌剤がその成績向上の要因と考えられる。
しかし、2001年からの膵癌症例全体の成績をみても平均生存期間(MST)は14.7ヶ月、5年生存率は13%となっており、未だきわめて予後不良な癌といえる。切除できない場合の平均生存期間は8.2ヶ月、1年生存率32.6%であり、3年以上の生存はほとんどない。切除できた場合は平均生存期間21ヶ月、1年生存率70.6%、3年生存率30.3%、5年生存率は18.8%と最近報告されている。極めて予後不良ではあるが切除例のなかにはじめて長期生存例が存在する。最近では切除後にゲムシタビンやエスワンを用いた補助化学療法が行われることが多くなっており、術後成績の向上に寄与している。

門脈カテーテルバイパス法

私は1981年に抗血栓性門脈バイパス用カテーテルを開発した。それまで膵癌手術において門脈合併切除は至難の技とされていた。しかし、このカテーテルを用いて術中門脈血を体循環や肝内門脈にバイパスすることで安全に門脈を遮断する方法を確立し、門脈合併切除はより安全に施行可能となった。膵癌手術においては癌遺残のない切除術(R0)をすることが絶対条件であるが、門脈浸潤を認めてもR0の手術が門脈合併切除によって達成され得る。
積極的なR0手術に加えて術後補助化学療法も併施することにより自検例の最近6年間では1年生存率78%、2年生存率60%。3年生存率40%に上昇しつつある。また膵頭部癌の基本手術は膵頭十二指腸切除術であり、高難度手術であるとともに術後合併症の発生率も高く、時として合併症で術後死亡することもある。術死亡は全国的調査で2%程度であることが報告されている。自検例では幸いに1998年より手術後合併症による死亡は経験しておらず、膵癌診療ガイドラインでも記されているように経験数の多い病院での手術が推奨されている。

残念ながら膵癌発見時にすでに遠隔転移(肝・肺等)や局所浸潤があまりにも高度で上腸間膜動脈や総肝動脈に浸潤しているものは切除の対象とならない。当院では定位放射線治療装置(ノバリス)を所有しており、抗癌剤治療とともに局所浸潤癌に対しては放射線治療も積極的に進めている。

IPMNの術後累積生存率(自検例)

通常型膵癌と比較して予後の良好な嚢胞性の膵腫瘍、とくに膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)等が最近では発見されることが多く、膵や消化管機能を温存した手術(膵頭十二指腸第II部切除術や膵中央切除術など)が適応されることが多い。
これらの診断にはCT、MRI、超音波内視鏡検査(EUS)、PET等が有用である。膵腫瘍の診断と治療に関しては放射線科医、消化器内科医、消化器外科医(なかでも膵切除経験の多い)相互の連携がきわめて重要である。

当院では毎週火曜日の午後に膵腫瘍に関するセカンドオピニオン外来を開設しており、私が担当しております。
膵癌は21世紀に残された最後の難治の癌といわれているが当院では積極的に膵癌診療を進めており連携医・協力医の先生方からのご紹介を今後ともよろしくお願いいたします。