地域医療連携

病診連携勉強会

糖尿病の眼合併症

【テーマ】
糖尿病の眼合併症
【講演者】
眼科 副医長 栗本 幸英

平成23年12月20日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

はじめに

糖尿病の眼合併症

糖尿病は、角膜障害、虹彩炎、白内障、外眼筋麻痺、網膜症、視神経委縮、血管新生緑内障など、眼科領域のあらゆる部位に病変をもたらす。中でも糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経症とともに、糖尿病の3大合併症のひとつである。
平成18年度の厚生労働省の調査によると、糖尿病が強く疑われる人は820万人、糖尿病予備軍の人は1050万人おり、日本人の7人に1人が糖尿病あるいは予備軍という計算になる。これは平成9年の報告に比べて500万人増えている。糖尿病患者の増加に伴い、糖尿病網膜症も今後ますます増加することが予想される。糖尿病網膜症を原因とした失明者は年間約3000 人と言われ、日本人の中途失明原因の上位を占めている。

糖尿病網膜症の診断・治療

糖尿病網膜症の分類(Davis分類)

糖尿病網膜症は、単純期、前増殖期、増殖期の3期に分類される。単純期に見られる所見は主に網膜血管の透過性亢進によるもので、毛細血管瘤や点状出血、硬性白斑などが生じる。前増殖期に見られる所見はいずれも網膜血管の閉塞を意味するもので、軟性白斑や網膜内細小血管異常などが生じる。増殖期は糖尿病網膜症の末期の状態で、この病期になると新生血管が出現する。新生血管は非常に脆弱で、破綻すると硝子体出血を生じ、進行すると線維性増殖膜が形成され、増殖膜が収縮すると牽引性網膜剥離が生じる。また、黄斑浮腫はどの病期でも生じる可能性があり、視力障害の原因となる。
網膜症で最も問題となるのは視力障害などの自覚症状が出現し始めるのが遅いことで、増殖期になるまで全く無症状のこともあるため、その段階で治療を開始しても視力回復が望めないこともある。したがって、糖尿病患者は眼の自覚症状がなくても、必ず定期的に眼科を受診する必要がある。眼科受診の間隔の目安は、網膜症が全くない場合は半年から1年に1回、単純網膜症では3か月から6か月に1回、前増殖網膜症では1,2か月に1回、増殖網膜症では2週間から1か月に1回くらいが目安になるが、罹患期間が長い、血糖コントロール不良、活動性の高い網膜症など、危険因子を有する場合には頻回の受診が必要となる。眼科で行う定期検査には視力検査、眼圧測定、眼底検査などがあり、更に精密な検査が必要な時は蛍光眼底造影検査を施行する。蛍光眼底造影検査では、血管透過性の亢進や、血管閉塞、新生血管などが検出しやすい。

糖尿病網膜症の治療

糖尿病網膜症の治療法は、レーザーを使った網膜の光凝固術と硝子体手術がある。網膜光凝固術は、虚血に陥った網膜から新生血管が生じることを防ぐために行う。点眼麻酔のもと、特殊なコンタクトレンズを用いてレーザー光で網膜に凝固斑を作る。点眼麻酔は表面の痛みしか取れないため、凝固の際は痛みを伴う。新生血管は血管閉塞領域から生じるため、この部分の網膜をレーザーで焼灼することによって、新生血管の発生を抑制する。あくまでも網膜症の進行予防が目的であり、視力を回復させることが主目的ではない。また、レーザーによって出血や網膜裂孔を生じたり、レーザー施行前より視力が低下する場合もある。しかし、網膜光凝固術を施行しないと徐々に網膜症が進行し、新生血管、増殖膜、網膜剥離などが発生していずれは失明する危険性があり、その防止策としては非常に有効である。
網膜光凝固術が網膜症の進行を予防することを目的とするのに対して、硝子体手術は視力障害となっている病変の除去が目的となる。網膜症に対する硝子体手術の適応としては、長期間自然吸収されない硝子体出血や、増殖膜による牽引で網膜が剥離する牽引性網膜剥離が適応とされてきた。最近では硝子体手術の器機や技術の進歩などにより手術の適応が拡大され、黄斑浮腫に対しても行われることがある。硝子体手術は通常局所麻酔で行い、顕微鏡下で硝子体出血を吸引したり、増殖膜を処理したり、光凝固を施行したりする。視力低下の原因となる黄斑浮腫に対して、近年ではステロイドの投与が行われたり、新生血管の軽減のために抗VEGF抗体の投与が行われたりしている。

糖尿病網膜症の発症・進展予防

内科と眼科の連携

糖尿病の罹患期間、血糖コントロールが、糖尿病網膜症の発症、進展に大きく関与する。厳格な血糖コントロールをしたほうが網膜症の発症が抑えられるが、既に網膜症を発症している患者での急激な血糖コントロールは網膜症を悪化させることがあり、血糖コントロールはできるだけゆるやかに行なうべきである。
糖尿病患者は定期的に眼科を受診することが重要だが、眼科を初めて受診した糖尿病患者のその後の眼科受診状況を調べると、約半数の患者が眼科受診を自己中断しているとの報告がある。糖尿病患者が早期から眼科を受診し、かつ中断を防ぐためには、糖尿病治療にあたる内科医と眼科医との密接な連携が必要で、その連携を補助するために糖尿病眼手帳が作られた。内科医が用意する健康手帳に習い、眼科医が用意する糖尿病眼手帳を、一緒に携帯することを推し進めている。