地域医療連携

病診連携勉強会

当院におけるインクレチン関連薬の使用経験

【テーマ】
当院におけるインクレチン関連薬の使用経験
【講演者】
糖尿病・内分泌内科 副医長 山本 祐歌

平成23年6月21日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

インクレチンとは

インクレチンは腸管由来のインスリン分泌刺激因子で、栄養素の刺激によって小腸粘膜に局在する細胞から分泌される消化管ホルモンです。GIPとGLP-1 があり、GIPは小腸上部のK細胞から、GLP-1は小腸下部のL細胞から分泌されます。
1964年、静脈もしくは小腸にブドウ糖を投与すると同定度の血糖値にもかかわらず、小腸に投与した場合に著明なインスリン分泌を認め、健常人に対するブドウ糖の経口摂取が経静脈投与に比べてインスリン分泌を効率的に促進するインクレチン効果が報告されました。インクレチンによるインスリン分泌の特徴は、グルコース依存性で血糖上昇時のみインスリン分泌を促進させ、低血糖時にはインスリン分泌を増加させません。インクレチンは膵β細胞に作用し、インスリン遺伝子の発現を促進し、インスリン合成する作用の他、膵β細胞を増殖させる作用、抗アポトーシス作用による膵β細胞保護作用があります。また膵β細胞以外のδ細胞、α細胞への作用もあり、特に、生体でのグルカゴン分泌抑制作用は糖尿病におけるグルカゴンの奇異性分泌を抑制するため重要です。膵外作用には、中枢神経系に作用し食欲低下、胃排泄運動低下作用の他、心筋保護、血管内皮機能、脂質改善作用や、収縮期血圧低下作用が報告されており、生活習慣病と関連した病態の改善が期待されます。

インクレチンの膵島への作用

2型糖尿病患者に経静脈的に外因性にインクレチンを投与した報告では、GLP-1投与に対してインスリン分泌反応を認めましたがGIP投与では認めませんでした。この結果から、GLP-1が2型糖尿病に有効であることが示唆されましたが、生体にはGLP-1活性を阻害するDPP4が存在します。DDP4を阻害するのがDPP4阻害薬で、内因性GLP-1濃度を増加し、GLP-1ENHANCERとして効果を発揮します。DPP4阻害薬は、胃排出能低下による嘔気などの副作用も殆どないため認容性が高いですが、体重減少効果は認めません。GLP-1受容体作動薬は、外因性に血中GLP-1を高濃度にするため、血糖降下作用はDPP4阻害薬より強く、体重減少効果も認められます。現在、本邦ではシダグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチンの3種類のDPP4阻害薬が使用できます。

当院におけるシダグリプチン使用例

当院のシダグリプチン内服症例の37例を解析しました。男性29例、女性8例で、平均年齢は58+/-10歳です。罹病期間は10+/‐7年。平均BMIは25.7+/‐5.0で開始時HbA1cは7.05+/‐1.04%でした。全体の開始時HbA1cは平均7.05%でしたが、開始後1~3ヶ月では6.59%と低下しました。基本療法に加えシダグリプチン50mgを開始した症例は4例で、開始時HbA1Cは7.05%で、1~3ヶ月後は6.55%でした。グリニド薬とαGI内服からシダグリプチン単剤へ変更した2例、BGとαGI内服からシダグリプチン単剤へ変更した1例は開始時平均HbA1c6.6%から6.53%と低下しています。多剤併用療法で、SU薬は減量または中止、BG、TZDはそのままで、グリニド、αGIは中止とした症例では、開始時平均HbA1c6.9%でしたが6.45%まで低下しました。

HbA1C値変化量(開始時HbA1c値別)

BGにシダグリプチンを追加した3例は、開始時HbA1cは7.23%でしたが6.8%に低下しました。全症例の平均体重は開始前67.1kg、内服開始後66.9kgで体重は少なくとも増加はしていないという結果でした。HbA1Cの変化量は、開始時のHbA1C別に検討したところ、投与前HbA1C8%以上群では-1.26%、7~8%群では-0.57%、6.5~7%群では-0.28%、6.5%未満群では-0.1.%で開始時HbA1cが高いほどより効果がありました。罹病期間では、10年以上でHbA1cの変化量は-0.48%、6から10年で-0.54%、5年以下で-0.35%であり、罹病期間とHbA1cは関連がありませんでした。

次にGLP-1作動薬は、GLP-1受容体アゴニストであるエクセナチドとGLP-1アナログ製剤のリラグルチドがあります。当院では3名にリラグルチドを導入しました。症例1は、身長171cm、体重102kg BMI35、症例2は身長174cm、体重172kg、BMI56.7、症例3は、身長152cm、体重102kg BMI45.1です。症例1は入院時HbA1c8.2%、体重102kgでしたが、退院後5ヶ月でHbA1c5.7%、体重は91.9kgとなりました。症例2は入院時HbA1c6%、体重172kgで、退院後2ヶ月後HbA1c5.5%で体重148kgとなりました。症例3は、入院時HbA1c9.3%、体重105.1kgで退院後2ヵ月後HbA1c10.2%と悪化、体重は退院直前98.5kgでしたが、退院後2ヶ月で100.9kgと血糖、体重ともに悪化しました。

糖尿病治療は、健康の人と変わりない日常生活の質を維持という目標が掲げられています。インクレチン関連薬は膵β細胞保護作用があるだけでなく、従来の糖尿病治療薬にはない低血糖のリスクの軽減、体重減少効果があり、この目標を実現させうる薬剤と考えられます。治療の選択肢が広がった一方で、長期内服された場合の安全性がまだ不明なこと、内因性インスリン分泌が低下しているようなインスリン依存状態の症例には効果が乏しいということを考慮し、最終的には、インスリン分泌能を含めた病態を把握し、適切な治療を選択することが必要なのではないかと考えます。