地域医療連携

病診連携勉強会

臨床に役立つパーキンソン病とパーキンソン症候群の診療

【テーマ】
臨床に役立つパーキンソン病とパーキンソン症候群の診療
【講演者】
神経内科 主任医長(科長) 木村 彰宏

平成23年4月27日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

はじめに

パーキンソン症候群

パーキンソニズムにはパーキンソン病とパーキンソン症候群とがあり、パーキンソン病は弧発型パーキンソン病と家族性パーキンソン病に、パーキンソン症候群は変性疾患と非変性疾患に分類できる。
変性疾患にはびまん性Lewy小体病(DLB)、多系統萎縮症、進行性核上麻痺、皮質基底核変性症、固縮型ハンチントン病、進行期Alzhehemer病、前頭側頭型認知症などがあり非変性疾患には脳血管性パーキンソニズム、薬剤性パーキンソニズム、中毒性パーキンソニズム、感染後パーキンソニズム、正常圧水頭症、外傷後パーキンソニズムがある。治療が可能で完治できるもの、症状の改善が期待できもの、ほとんど治療効果が期待できないものがあり、パーキンソニズムの鑑別は重要である。

パーキンソン病

人口10万人あたり100-170人で、中村区で考えると136人から231人となるが当院で100名以上の患者数がありもう少し多い印象がある。男女比は報告によってばらつきがあり一定ではない。欧米は日本人より多い。年齢は50代後半から60代が最も多い。最近では高齢発症が増加している。5%に家族性がみられる。
初発症状は50%が安静時振戦、30%が歩行障害、20%が手の巧緻障害で発症する。左右差があるのが特徴である。
振戦は重要な症状である。4-5Hzのゆっくりとした安静時振戦で80%の症例で経過中にみられる。随意運動にて振戦は停止し姿勢をとると10秒程度で振戦が止まる。本態性振戦には潜時はない。頭部が左右に震えることは稀であるがL-dopaの副作用でみられることはある。
固縮は筋肉を受動的に伸展したときに検者が感じる抵抗である。伸展している間ほぼ同じように抵抗がある。パーキンソン病では歯車現象が特徴である。頸部や下肢では鉛管様固縮の場合もある。初期には固縮がない症例もある。
動作緩慢は文字通り動作がゆっくりとなることである。無動とはじっとして動かなくなる。小声、書字が小さくなり、ボタンや紐を結ぶことがしにくくなる巧緻障害がみられる。筋力低下はないが最大収縮まで時間がかかる。長距離の歩行などで疲労現象がみられる。姿勢反射障害は押された時に姿勢を立て直せずに倒れる現象である。前傾姿勢は後方への転倒を防ぐ代償としてみられる。突進歩行は後方から現れる。姿勢反射障害他のパーキンソン症候群でも広くみられるため特異的ではない。
自動運動の消失は無意識に行う運動が消失することである。まばたき、自然な眼球運動がみられにくくなり、一点をみる眼差し、仮面様顔貌となる。無意識な唾液の嚥下がなくなるため流涎が出やすくなる。また、歩行時の腕の振りが少なくなる。両手で行う動作で片方が止まってしまうという現象もみられる。
非運動症状としては自律神経症状で便秘が90%以上にみられる。脂漏症、頻尿、起立性低血圧も出現する。睡眠障害は75%以上に合併する。うつ病も40%と高率に合併する。
感覚障害としては、臭覚低下が80%以上にみられ運動症状に先行して出現する。
検査所見では一般検査に異常はない。頭部MRI,CTにても異常はなく、MIBG(心筋シンチ)にて著明な取り込み低下があるため他のパーキンソン症候群との鑑別に非常に有用である。DLB(びまん性レヴィ小体病)や多系統萎縮症でも取り込み低下することと、10%のパーキンソン患者は正常であるため他の臨床症状や経過、L-dopaの反応などとの総合的な判断が重要となる。

パーキンソン病初期の治療(2011)
薬剤性パーキンソニズム

パーキンソン症候群で最も頻度が多く、治癒可能なものが薬剤性パーキンソン症候群である。薬剤性パーキンソン症候群はパーキンソン病と症状が似ているため鑑別が難しいが、比較的急激な発症であり、左右差が目立たない、無動といった歩行障害で発症が多い、鉛管状の固縮が主体である。精神症状(抑うつ、焦燥感、認知症など)を伴うことがあるなどの鑑別点がある。老人ではパーキンソニズムの約半数との報告もあり、地域医療においては非常に重要な疾患である。薬剤中止後1-3ヶ月で改善するが、症状消失まで1年以上かかることもある。
パーキンソン病の治療の考え方としてはすべて対症療法である。したがって、診断即時治療の必要はない。日常生活に不自由を感じ始めた頃が治療開始でよい。しかし最近では早期治療開始が主流となっている。
初期治療は、維持量で副作用がでないか副作用が許容できる範囲で、患者の満足度の得られる量を目指す。維持量が低いために得られるはずの改善が得られないことがないように注意する。初期の治療は薬物の反応もよく副作用も出現しにくいが、進行期の治療は難渋する場合も多い。
進行期の患者とは、すでにL-dopaを服用しており、しかもそれに伴う問題点が出ている患者をいう。運動症状としてwearing off、on-off、no-on/delayed on。非運動症状として自律神経症状(便秘、頻尿、起立性低血圧)、感覚障害(臭覚低下、off時の痛み)、うつ症状および睡眠障害などがある。
薬物療法を工夫しても限界がある場合も少なくない。視床下核深部脳刺激術(STN-DBS)が効果的な場合がある。著明なwearing offとジスキネジアがあり、薬物療法を十分試しても改善が得られない場合が適応となる。認知症がない、発症15年以内の若年ケースのほうが成績がよいなどの条件があり、全てのパーキンソン病の患者が適応にはならず、全患者の5%程度が適応になるといわれている。L-dopaで改善する症状は手術でも改善しやすい。当院では脳神経外科が積極的に行っている。