非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による胃腸障害
~胃潰瘍診療ガイドラインをふまえて~
~胃潰瘍診療ガイドラインをふまえて~」
平成22年12月21日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。
アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、抗炎症・解熱・鎮痛作用や血小板凝集抑制作用を有する薬で、高齢化社会を反映し、使用頻度は近年増加傾向にある。プロスタグランジン(PG)の合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の抑制が主たる作用機序とされ、発熱・炎症性疾患、整形外科的疾患、膠原病などの治療、さらに脳血管障害や虚血性心疾患の予防と治療などに広く使用され、副作用として消化管病変があり臨床上問題となる。ヘリコバクターピロリ(以下ピロリ)菌の発見以来、消化性潰瘍の原因はピロリ感染と考えられるが、ストレスやNSAIDsなどの薬剤も消化性潰瘍の原因であり、とくに最近ではピロリ感染の既往のないNSAIDs潰瘍が増加しつつある。
1991年の日本リウマチ財団委員会報告では、3カ月以上NSAIDsを使用した1,008例の関節リウマチ患者の62.3%に何らかの上部消化管病変が認められ、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の発見率(15.5%と1.9%)は、同時期の日本消化器集団検診学会統計のそれと比較して明らかに高率であることが示されている。その形態学的特徴として、幽門部から前庭部に多発する小潰瘍、前庭部の深い下掘れ潰瘍、不整形の巨大潰瘍などが挙げられており、また、発症の危険因子として、高齢、潰瘍の既往、糖質ステロイド・抗凝固療法の併用、高用量・複数のNSAIDsの使用、全身疾患の合併などが報告されている。さらに、発生機序として、粘膜防御に関与するPGの産生減とともに、直接的傷害作用、胃酸の影響、酸化ストレスの関与などが示唆されている。2007年に発表された「EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン」によると、(1) NSAIDsは可能ならば中止し通常の潰瘍治療を行う、(2) NSAIDsの中止が不可能であれば、プロトンポンプ阻害薬(PPI)あるいはPG製剤による治療を行う、および(3NSAIDs継続下での再発防止には、PPI、PG製剤あるいは高用量のH2受容体拮抗薬(H2RA)を用い、低用量アスピリン投与下での再発防止にはPPIを用いることが推奨されている。同時に、従来のNSAIDsを選択的COX--2阻害薬に変更することも勧めている。
NNSAIDsが中止できれば通常の潰瘍治療を行うが、中止できない場合はPPIあるいはPG製剤により治療を行う。海外ではNSAIDs潰瘍による出血や穿孔などの重篤な合併症のため、PPIによる予防的治療が勧められている。これまでの検討から、NSAIDs潰瘍の発生を予防できる薬剤はPG製剤、高用量のファモチジン、PPIであり、海外はPPIがNSAIDs潰瘍の発生予防に主に用いられる。胃潰瘍診療ガイドラインにおいて、NSAIDs潰瘍の予防には前述した3つの薬剤がグレードA(行うよう強く勧められる)、エビデンスレベルⅠ(有効性が明らかにされている)で、推奨されている。