地域医療連携

病診連携勉強会

ファブリー病

【テーマ】
「ファブリー病」
【講演者】
血液内科主任医長 坪井 一哉
坪井 一哉

平成22年6月15日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

病態

ライソゾーム病とは・・・

ファブリー病 (Fabry disease)は、細胞内リソソーム(ライソゾーム)の加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼ(α-GAL)活性が正常値より?足あるいは欠損しているため、この酵素で本来分解されるべき基質のグロボトリアオシルセラミド(GL-3)などの糖脂質が主に血管内壁に蓄積する先天性代謝異常疾患です。
そのため、さまざまな臨床症状がみられます。
心臓や腎臓などの組織や複数の臓器の機能が進行的に障害され、また、発汗障害や四肢末端痛、被角血管腫、角膜混濁などがみとめられます。
例えば、発汗機能が障害され、体温調節ができないため、暑さや寒さに対する適応が困難となります。
また、腎機能の悪化にともない血液透析を導入する場合や、心筋障害、冠血管障害のため重篤な?整脈が出現し、ペースメーカーの植込みが必要となる場合があります。臨床所見や臓器障害、性別により古典型、亜型(心ファブリー, 腎ファブリー)、ヘテロ型に分類されています。

症状

グロボトリアオシルセラミド(GL-3)は血管内皮細胞をはじめ、全身の細胞に蓄積し、時間の経過とともに悪化します。
下記に示す症状にも個人差があり、症状は疾患の進行によって変化してゆきます。

a)消化管症状

胃腸障害:食後の腹痛や下痢、嘔気、嘔吐など。

b)神経症状

四肢疼痛:手先、足先に発作的な疼痛が生じ、数分から数時間持続します。また、持続的な感覚異常(鈍くなる・しびれる・チクチクする)も起こることがあります。
聴覚低下:内耳神経にグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が蓄積することにより、聞こえにくく、耳鳴りが生じることがあります。

c)皮膚症状

被角血管腫:赤紫色の発疹が、胸部、腹部、臀部、陰部、大腿などに出現します。痛みやかゆみはないと言われています。低・無汗症:発汗機能が障害され、汗をかきにくくなり、体温調節ができなくなります。

d)眼症状

角膜混濁:角膜に渦巻き状の混濁が確認されます。一般的には視力には影響がないと言われています。他には、結膜および網膜の血管病変、ならびに水晶体の混濁などが認められます。

e)腎機能障害

尿中のタンパク量が増加し、その後、腎不全にまで至る場合があり、重篤な臓器障害の一つです。

f)心機能障害

心肥大や心筋梗塞、弁膜異常などを呈し、腎?全と同様に重篤な臓器障害の一つです。

g)脳血管障害

脳梗塞や脳出血を起こし、記憶障害や運動麻痺を来たす場合があります。

h)精神障害

うつ症状をきたすこともあります。

臨床分類

臨床分類

酵素補充療法

酵素補充療法とは

ファブリー病は、α-ガラクトシダーゼという酵素が細胞内リソソーム(ライソゾーム)で作られないために、糖脂質(グロボトリアオシルセラミド)を分解することができず、そのためグロボトリアオシルセラミドが体内に蓄積してしまう疾患です。
酵素補充療法は、この欠損している酵素を製剤化して体外から点滴で補充し、蓄積している糖脂質を分解/代謝する治療法です。米国では、1998年に遺伝子組換えヒトα-ガラクトシダーゼによる臨床試験が開始され、2003年に承認、販売されています。本邦では、1999年に希少疾病用医薬品の指定を受け、2000年に臨床試験が開始され、2004年1月に厚生労働省により承認され、同年4月に販売されました。現在(2010年)、本邦では約400名の方が酵素補充療法を受けています。

1)重大な副作用

発熱反応、心血管系症状、過敏症、消化管症状、四肢の疼痛を投不中に起こすことがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には点滴速度を下げ、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤、副腎皮質ホルモン剤等の投不を考慮します。

2)その他の主な副作用

  • 全身 倦怠感、胸痛、疼痛
  • 消化器 嘔気、嘔吐、腹痛、下痢
  • 眼 流涙異常
  • 神経 振戦、めまい
  • 血液系 好酸球増加症
  • 注射部位 不快感、掻痒感、腫脹及び無菌性膿瘍