地域医療連携

病診連携勉強会

当科における睡眠時無呼吸症候群に対する検査と治療

【テーマ】
「当科における睡眠時無呼吸症候群に対する検査と治療」
【講演者】
耳鼻いんこう科副医長 山本 浩志
山本 浩志

平成21年12月15日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

平成21年10月より当院耳鼻いんこう科にて睡眠時無呼吸症候群に対する専門外来を本格始動させていただきました。今回は、先日、病診連携勉強会で発表させていただいた内容を中心に睡眠時無呼吸症候群に関する基礎知識と当院で行っている検査と治療について改めてご紹介させていただきます。

SASの定義

睡眠時無呼吸症候群と聞くと、何だが少しむずかしく感じる方もおられるかもしれませんが、実は皆さんがごく身近で体験することが多い“いびき”に関わる眠りの障害の総称です。家族の方で大きないびきをかかれる方や、十分睡眠を取っているのにスッキリした目覚めが得られない方、日中眠気が強く集中力が沸かない方などは、もしかすると睡眠障害による影響を受けているかも知れません。実際、日本でも潜在的な患者を含めると患者数は200万人を超えると予想されています。

睡眠中の大きな”いびき“などは、睡眠学では、睡眠時呼吸障害(SDB: sleep disordered breathing)と呼び、その中でも睡眠中に頻発する無呼吸や低呼吸を特徴とするものを睡眠時無呼吸症候群(SAS: sleep apnea syndrome)と分類しています。睡眠時無呼吸症候群(SAS)の定義と診断をする上で知っておく必要があるのが以下の3つの言葉です。

  • 無呼吸(apnea)
    睡眠中呼吸停止が10秒以上続くものを1回と数えます。
  • 低呼吸(hypopnea)
    安静覚醒時に比べ50%以上の呼吸低下が10秒以上続き、更に血中酸素飽和度が基準値から3%以上低下する、又は、脳波上、覚醒反応を伴う場合をいい、1回と数えます。
  • 無呼吸・低呼吸指数(AHI: apnea hypopnea index)
    全睡眠中の無呼吸、低呼吸の回数を睡眠時間で割った値で、無呼吸、低呼吸が1時間当たり何回発生したかを示す指数です。

これらの定義に基づき睡眠時無呼吸症候群(SAS)は診断されます。


  • 中枢型(central SAS (CSAS)
    呼吸中枢からの呼吸筋への運動指令が停止してしまうため無呼吸発生時、胸郭と腹壁の動きがなくなる状態
  • 閉塞型(obstructive SAS (OSAS))
    呼吸停止後も呼吸努力が見られる状態
  • 混合型(mixed SA (MSA))
    無呼吸時に中枢型と閉塞型の両者が見られるもの
OSASの発生機序

中枢型(CSAS)は、主に脳梗塞等の脳血管障害後遺症や心不全などに伴って見られることがありますが、専門外来に受診される患者さんは閉塞型(OSAS)が多く、日ごろからいびきや昼間の眠気で悩まれている方が多いようです。発生機序としてOSAS患者は、健常者より軟口蓋が低位の方が多く、また、頤舌筋の緊張低下により咽頭腔の狭小化や閉塞が起こり、吸気時に上気道狭窄を更に悪化させると考えられています。

睡眠時無呼吸症候群の患者の主な症状は、睡眠中の激しいいびきや無呼吸に加え、異常体動や中途覚醒による夜間頻尿などさまざまです。また、慢性的な睡眠不足による全身倦怠感や頭痛などを訴える場合もあります。これらの影響が就労効率や学力の低下を招くとされ、過去の報告によると睡眠時無呼吸症候群の患者は、健常者に比べ運転中の交通事故発生率が2-10倍高いというデータもある様です。更に、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、心筋梗塞や高血圧、脳血管障害などを合併する率が健常者に比べ高く、基礎疾患を悪化させる要因のひとつと考えられるようになってきました。つまり、睡眠時無呼吸症候群の治療は、眠りの治療ばかりでなく合併症の予防や基礎疾患の進行防止にもつながる重要な要素であるという意識が医療関係者の中でも高まっています。

以上のことから睡眠時呼吸障害の治療は、患者さんがより良い日常生活を送るための新たな治療の選択肢となりうると考え、地域社会に貢献すべく当院でも専門外来を行うことになりました。

当院で睡眠時無呼吸症候群の検査を希望される方は、まず、毎週火曜日の専門外来に受診していただきます。初診時に自覚的な眠気についての問診(ESS: Epworth sleepiness score)を行った後、鼻腔、口腔、咽喉頭腔に狭窄を引き起こす病変の有無を診察させていただきます。
検査が必要と判断された方は、次に、簡易呼吸検査を自宅で行っていただきます。簡易検査では、経皮的酸素飽和度測定器と呼吸センサー、いびきセンサーにより睡眠中の主に呼吸変化をモニターします。簡易検査の結果で無呼吸・低呼吸指数:AHIが5以上ある方は、睡眠障害の診断と重症度の評価のため1泊2日の入院による終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG)検査を受けていただきます。
PSG検査では、睡眠中の脳波、心電図、筋電図を含めた睡眠時呼吸障害の状態を総合評価します。入院当日は、午後4時に入院していただき、夕食・入浴後、21時には検査開始となります。いびきを気にされる方も病棟は個室なので安心して検査を受けていただけます。翌日午前7時には検査終了し午前9時までには退院可能です。
PSG検査結果は、直ちに解析し後日、外来にて結果を報告させていただきます。検査結果でAHIが20以上の方は、CPAP(経鼻的持続気道陽圧療法)の適応となります。また、鼻副鼻腔炎、扁桃肥大症の方は、耳鼻科的な手術をお勧めする場合もあります。
当院でCPAP治療を開始された患者さんは、月1回外来診察にてCPAPの使用状況をチェックし、血圧、体重等の管理をさせていただきます。更に必要な場合は、栄養指導や内科的診察・検査を受けていただくよう体制を整えていく予定です。

当院におけるSASの検査と治療の流れ
PSG検査とその後の流れ

以上のことから睡眠時呼吸障害の治療は、患者さんがより良い日常生活を送るための新たな治療の選択肢となりうると考え、地域社会に貢献すべく当院でも専門外来を行うことになりました。