末梢神経によるしびれ
平成21年10月20日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。
日常診療において頻繁に遭遇する「しびれ」についての講演を行った。
患者の訴える「しびれ」とは、①異常な感覚(ビリビリ、ジンジン、チクチク等)、②感覚の鈍麻・消失、③運動麻痺など、多彩な症状を含んでいる。
鑑別が必要となるが、特に問診開始時に、病巣が多発か単発か、急性か慢性かを念頭に置かないと診断の方向性を間違ってしまう事になる。
「しびれ」の原因は多様であり、大別しただけでも内科的疾患(薬物、代謝、内分泌、脱髄、免疫、遺伝性、傍腫瘍、血管障害、てんかん)、外科的疾患(脳腫瘍、脊髄腫瘍、空洞症、血管障害、脊椎疾患、絞扼性ニューロパチー)など多彩である。
正確な診断を導くには、外来診療の経験上、症状観察のポイントがあることに気づいた。
- 症状の部位が単発か多発か⇒単発なら局所の可能性高い。
- 頭部・顔面を含むか⇒頭蓋内病変の可能性高い。
- 頸部以下なら障害レベルがあるか⇒脊髄内病変の可能性高い。
- 手袋、靴下型の障害か⇒polyneuropathyの可能性がある。
- Babinski兆候には特に注意を要する。
以下に症例を提示して、実践的に検討する。
【例1】40歳女性、基礎疾患なし、パソコンでよく手を使う、次第に進行してきた右手掌の痺れ、右Tinel兆候陽性
診断:
神経伝道検査で手間接部での伝道速度低下があり、手根管症候群
【例2】65歳女性、高血圧、高脂血症、急性に出現した 右手と右口角周囲のしびれ
診断:
顔面を含む異常であり、頭部MRI撮影にて、左視床梗塞によるcheiro-oral synd.と判明
【例3】47歳男性、高血圧、喫煙暦あり、急に生じた左後 頭部痛、めまい、左顔面しびれ、右上下肢しびれ
診断:
頭部顔面を含む異常であり、MRI撮影。延髄梗塞 による左Wallenbrg synd.と診断。発症早期であっ たため、血栓溶解療法を行い、劇的な症候の改善 を認めた。
【例4】58歳男性、急性アルコール中毒で搬送、覚醒後、四肢の痺れを訴え神経内科コンサルト。Babinski+/+、両膝蓋腱反射亢進、末梢神経伝導検査は正常
診断:
顔面を含まない両側の症状にて頸椎MRI撮影。変形性頸椎症、頸椎ヘルニアであり後日脳神経外科にて手術治療。
【例5】45歳男性、急性アルコール中毒で搬送、入院後夜間も持続性に陰茎が勃起しており、血圧も低かった。当直医はアルコールとともに何か薬物を服用したかと考えた。覚醒後、四肢麻痺が判明
診断:
四肢麻痺、両側Babinski 陽性であり、頸椎MRI緊急撮影。C3/4の頸髄損傷を合併していた。
泥酔者の転倒は非常にリスクが高く要注意であると考えられた。
【例6】69歳女性、パーキンソン病で通院、パーキンソニ ズムは落ち着いているが、次第に進行する右下肢 のしびれ、だるさを訴えている。
診断:
顔面を含む異常であり、頭部MRI撮影にて、左視 床梗塞によるcheiro-oral synd.と判明
【例7】52歳男性、糖尿病治療歴7年、HbA1c10.1、両下肢がジンジンして苦痛になってきて、最近は両 手もしびれるので受診した。四肢深部腱反射は減弱。
診断:
両側の手袋、靴下型感覚障害。末梢神経障害を疑い神経伝導検査を実施。特に、正中神経と腓 腹神経のSCSはほとんど導出されず、CV-RRも自律神経障害を示唆する結果であった。基礎疾患 より糖尿病性ニューロパチーと診断した。
【例8】63歳男性、既往歴・家族歴なし、両足部が痛かったが最近痛みが上ってきて下腿以下が痛い。手は無症状。
診断:
末梢神経障害を疑い、膠原病、糖尿病、栄養障害など検索、髄液検査や末梢神経伝導検査も実施するも診断つかず。さらに病状進行し脛骨神経は全く導出できなくなった。最終手段として、腓 腹神経生険して家族性アミロイドポリニューロパチーと診断した。
【例9】74歳女性、既往なし、両側胸部以下がびりびりして急に歩けなくなった。
診断:
脊髄のMRIでTh2/3に主病変あり、脳や頸髄C4レベルにも陳旧性病巣を認め、時間的空間的多 発を認めたことから、多発性硬化症と診断。
【例10】63歳男性、数ヶ月にわたり緩徐進行性の両下肢しびれ・歩行困難あり、痺れは次第に上行。下肢の腱反射は減弱。
診断:
末梢神経伝導検査で多発する脱髄所見と、髄液検査で蛋白細胞解離をみとめCIDP と診断。免疫グロブリン大量投与療法にて症状の改善を認めた。
これら自験例を振り返ると、しびれの原因として末梢神経障害は原因、症状とも様々で、診断が難しく、日常診療においても非常に悩まされていることに気づく。
外来診察だけでは診断できないことが多く、血清学的検索、末梢神経伝導検査、針筋電図、髄液検査などを用いて診断してゆく。特に末梢神経伝導検査は神経内科医にとって大きな武器となる。
末梢神経障害には難治性のものが多いが、例えば慢性炎症性脱髄性多発根神経炎は治療が進歩し、免疫グロブリン大量投与療法などが行われるようになった。
原因不明のしびれには、特殊な神経疾患が含まれている可能性があり、診断がつけば改善するものも含まれている。これらの鑑別には末梢神経伝導検査が有用であるので、今後も連携施設の方々との協力体制のもと診療を行ってゆきたい。
以下に症例を提示して、実践的に検討する。