地域医療連携

病診連携勉強会

当院消化器外科における腹腔鏡下手術の現状

【テーマ】
「当院消化器外科における腹腔鏡下手術の現状」
【講演者】
消化器外科主任医長 三浦 進一
三浦 進一

平成21年8月18日(火)、病診連携システム登録医の先生方をお招きして勉強会を開催いたしました。勉強会の内容をまとめましたので、以下にご紹介いたします。

腹腔鏡下手術の開発により、以前には大きくお腹を切り開いて行ってきた胆石、胃癌、大腸癌、などの手術をお腹を大きく切り開くことなく行うことができるようになってきた。腹腔鏡下手術の開発により、以前には大きくお腹を切り開いて行ってきた胆石、胃癌、大腸癌、などの手術をお腹を大きく切り開くことなく行うことができるようになってきた。『手術とはお腹を切り開くため手術後の痛みが強く辛いものである』というイメージの手術の傷が小さくでき、そのため術後の痛みも少なく体に優しい進化した手術といえる。
腹腔鏡下手術は日本では1990年から導入され、胆石症では標準術式となり、近年では、胃癌や大腸癌などの癌治療に対してもどんどん適応が拡大され、それ以来着実に進歩を続けてきている。今回、病診連携勉強会にて貴重なお時間を頂くことができ、当院でも積極的に行うようになってきている腹腔鏡下手術の利点、問題点、今後の展望も含め紹介させていただいた。

腹腔鏡下手術とは

腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術は従来の治癒を目指す治療である拡大手術とquality of life(QOL)を重視する縮小手術のよいところを併せ持った、根治性を落とさずにQOLを高めることを重視した画期的な治療方法である。具体的には5~12mmのトロッカーと呼ばれる筒を数本腹腔内へ挿入し、お腹を炭酸ガスで膨らませてから腹腔鏡と呼ばれるカメラを用いてお腹の中の様子をモニターテレビに映し出し、細長い手術道具をお腹の外から操作して行う腹部手術である。

腹腔鏡下手術の利点

腹腔鏡下手術には、手術中、手術後にもさまざまな利点がある。
手術中には従来の手術では術者、あるいは第一助手まで程度しか得られなかった手術視野が、手術を施行している医師、麻酔を施行している医師、直接・間接介助している看護師など手術スタッフ全員が同じ視野を共有することができ、discussion、educationをその場で行うことが可能である。
また、患者さんが直接感じることができる手術後のメリットとしては、①痛みが少なく離床が早いこと、②術後の肺機能低下が少ないこと、③傷の感染が少ないこと、④腸管運動の回復が早く食事を早く再開できることなどがあり、結果として入院期間が短縮可能となる。加えて、⑤傷が小さいため美容上優れていること、⑥術後の腸閉塞の発生が圧倒的に少ないことなども大きな利点となる。

腹腔鏡下手術の問題点

一方、開腹手術と比較して問題点が多いことも否めない。手術操作を考えると、器械の操作性の自由度が低く、術者の手の触覚が利用できないため、開腹手術に比べ手術手技の制約がある。そのため出血に対する処置が困難であるなどの問題点があ る。またカメラを用いた手術であり全体の展望がしにくく、カメラの視野外には死角が存在するなど手術視野の制約もまた問題点で、精密な手術を行うには手術時間が長くなってしまう。
以上のような問題点による弊害が起きないようにするために、鏡視下操作の十分なトレーニングが必要であるが、開腹手術以上に術者間での手術手技のばらつきが認められるのが現状である。手術手技以外にも多々問題を抱えており、腹腔鏡下手術に用いる器具のコストが非常に高く、またディスポーザブルのものも多く使用せざるを得ないため、医療産業廃棄物が多く出てしまう側面もある。
悪性疾患に対しては導入されてからの歴史が浅いため、まだまだ十分なevidenceの蓄積がなく、今後もevidenceの蓄積が必要である。

名古屋セントラル病院における腹腔鏡下手術症例数

以下に示すように2007年度から徐々に腹腔鏡下手術の症例数を増やしていっている。

腹腔鏡下手術適応疾患: 悪性疾患
当科における腹腔鏡下手術症例数

腹腔鏡下手術の今後の展望

新しい手術トレーニングシステムVirtual reality (VR) simulator for minimally invasive surgery

腹腔鏡下手術は、さまざまな施設において、早期の癌に対する治療として、実施件数が著しく増加傾向にあり、術者さえ育成できれば今後は日常的医療になっていくと思われる。
しかしながら、他方で、進行癌に対してはまだまだ十分なevidenceの蓄積がなされておらず、施設と術者の多くの経験が必要であるため、今後も実施件数は増加していくものの、基幹的な施設に限って行われる術式に落ち着くと思われる。
術者の育成、手術手技の向上などのため、技術支援のために触覚を補う手術支援システムや手術ロボットの開発が進んでいる。Virtual reality simulatorを用いた手術トレーニングシステム。CT画像を元に構築する3Dナビゲーションシステムなども着実に開発がすすみ次々に実用化されている。
大きな手術でも小さな傷で楽に過ごせる腹腔鏡下手術が安全で確実な手術として確立されてきており、標準手術となることはそう遠くない未来であろう。