最新の内視鏡“カプセル内視鏡”の実際
小腸は暗黒大陸と呼ばれ、内視鏡による観察が困難であり、CTや小腸X線検査でも描出が困難であった。ところが、2000年に小腸を観察するための新しい道具としてカプセル内視鏡が開発され、最近の消化管診療のトピックスとなっている。当院でも2008年よりカプセル内視鏡を導入した。病診連携勉強会では、このカプセル内視鏡について紹介した。
カプセル内視鏡の歴史
内視鏡の起源は古代ローマ時代、ギリシャ時代にさかのぼると言われている。1950年代に胃カメラ、1970年代にファイバースコープ、1980年代に現在使用されている電子内視鏡(先端にCCDを内臓)が開発された。カプセル内視鏡は2000年にNature誌に発表、2001年に米国で認可され、2003年から日本での治験が開始した。2007年には日本で認可され、同年秋に保険収載となった。現在までに、世界で70万件以上の検査が施行されたと報告されている。
カプセル内視鏡の概要
カプセル内視鏡(PillCam SB)は、イスラエルのGiven社製で、大きさ11mm×26mm、重さ3.45gの小型で嚥下可能なカプセル内視鏡で、消化管の画像を1秒間に2枚撮影し、約8時間作動し、およそ55,000枚の画像が撮影可能である。撮影した画像は、随時体外のレコーダーへ送信する。
検査に必要な装置一式は、カプセル内視鏡本体、センサーアレイ、データレコーダー、画像解析用ワークステーションである。
カプセル内視鏡の手順
検査前日の夕食までは摂取し、その後は絶食とする。就寝前に下剤(マグコローP1包)を服用する。検査当日は、検査開始直前に腹部にセンサーを貼り、腰にデータレコーダーを装着し、あとは少量の水と一緒にカプセル内視鏡を飲むだけである。カプセル内視鏡内服後の2時間までは絶飲食とし、2時間後から水分摂取を許可、4時間後から食事摂取を開始する。検査中は活動に制限はなく、検査開始8時間後に、レコーダーを取り外し、検査は終了する。カプセル内視鏡は、後日、便とともに排出される。画像は、専門医がワークステーションで専用のソフトを用いて読影する。画像の解析には、1件当たり30分から1時間程度を要する。
カプセル内視鏡の適応
現在、日本での保険適応疾患は、原因不明の消化管出血であるが、事前に胃カメラおよび大腸カメラなどで,胃や大腸が出血源でないことを確認済の症例に限られている。
カプセル内視鏡の実際
カプセル内視鏡による全小腸観察率は原因不明消化管出血症例で80~90%であり、診断能も38.5~59.4%と報告されており、最近本邦で普及し始めたダブルバルーン小腸内視鏡の観察率60%前後、診断能42.9~53%と比較しても良好である。さらに、カプセル内視鏡は、苦痛がなく、非侵襲性である。当院でも、原因不明の消化管出血症例のスクリーニング検査としては、カプセル内視鏡を施行し、病変の部位や状態に応じてダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行している。カプセル内視鏡検査が施行されるようになり、様々な小腸疾患が報告されるようになっている。たとえば、NSAIDsによる、小腸潰瘍や血管性病変、腫瘍など様々な疾患がカプセル内視鏡で観察され報告されている。原因不明の消化管出血で他院より紹介され、当院でカプセル内視鏡を施行し、小腸に多発する潰瘍を認めた症例を紹介する。この症例では、空腸に多発する病変を認めたため、後日、経口的にダブルバルーン小腸内視鏡を施行し、生検で悪性リンパ腫と診断され、化学療法を施行し、寛解に至った。
カプセル内視鏡の展望
現在、欧米では、さらに画質の向上した新しい小腸用カプセル内視鏡(PillCam SB2)が開発され、日本にもいずれ導入される。また、食道用カプセル内視鏡(PillCam ESO)が市販されており、さらに、大腸用カプセル内視鏡(PillCam COLON)が、2006年秋から欧州で販売開始となっている。食道や大腸に関しては従来から日本で行われている内視鏡検査に代わる状況ではないが、今後のカプセル内視鏡の進歩によっては、消化管の癌のスクリーニング検査として日本でも用いられるようになるものと期待される。