地域医療連携

病診連携勉強会

パーキンソン病と機能的脳神経外科手術

【テーマ】
「パーキンソン病と機能的脳神経外科手術」
【講演者】
脳神経外科 医長 前澤 聡
前澤 聡

はじめに

パーキンソン病は1,000人に一人、65歳以上では500人に一人という高い罹病率を示す、実はよくある疾患の一つです。人口220万人の名古屋市内ではざっと2,000人以上の方がその様に診断されている計算になります。基本的な症状は震戦、固縮、寡動で、罹患年数を重ねる事に進行していきます。L-dopaを中心とする薬物治療で著明な改善が得られ、治療の基本となります。従って、まず診断を受けたら、内科(神経内科)を受診し、適切な薬物治療を受ける必要があります。しかし、薬物治療には限界があり、根治を得られる事はありません。年数を重ねるごとに薬物の効果時間は漸減し(wearing off)、また一日の中で薬が作用している時間と全く作用していない時間がはっきりしてきます(on-off現象)。更にL-dopaが不適切に作用して起きる不随意運動(薬物性ジスキネジア)も現れてきます。この様に薬物治療の限界を迎え始めた患者さんに有効な治療法が、機能的脳神経外科手術の一つである脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)です。

手術ー脳深部刺激療法(DBS)とは

脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)の実際

DBSでは、まず頭蓋内に直径1mm程度の刺激電極を留置します。次に導線を頸部から皮下組織内を通していきます。最後に長経60mmの薄い楕円形をした刺激発生装置を前胸部に埋め込み、これらを接続して完成です。脳内で刺激される部位は視床下核(STN)と言われる部分で脳のほぼ中心の底の方に位置します。同部位は正常な場合は、周辺の大脳基底核と呼ばれる各構造に興奮性の刺激を送り、様々な運動を調節する器官の中心的役割を担っていますが、パーキンソン病においては異常興奮しています。

視床下核が異常興奮→電気刺激で抑制する

この異常興奮が最終的には前頭葉皮質の過剰な抑制を引き起こし、パーキンソン病の諸症状を起こしているのです。視床下核刺激治療(STN-DBS)では、電気刺激を加える事で、STNの異常興奮を抑え、運動を正常化させる原理です。この治療方法は1992年にフランスのBenabidらが開始し、日本を含む全世界的に行われるようになりました。その治療効果は目覚しく、沢山の患者さんがその恩恵に預かっています。特に震戦、固縮といった症状が改善しやすく、またon‐off現象でもonの時間が優位に延長する事が知られています。刺激装置は半永久的に留置する事となります。留置術後、患者さんは電磁波障害の予防の為の若干の注意が必要となりますが、大きな生活制限はありません。周術期入院は、刺激調節期間も含め2週間程度が必要です。

オフが減ってオンが増える 不随意運動がないオンは27%から74%に*

ブレインスイートと当院での手術の特色

視床下核刺激治療は、しかしながら、どこでも行う事の出来る治療では有りません。STNに 正確に電極を留置せねば治療効果は薄く、その為には画像誘導定位的手術の設備と技術、電気生理学的同定(微少神経細胞電気活動記録)の技術が必要で、限られた施設でしか行う事が出来ません。東海地区で同手術を実施している施設は名古屋大学をはじめ限られた施設だけですが、当院はこの治療に必要な設備と技術を完備しており、この治療を行う事が可能です。

BrainSUITEでの実際の手術風景

当院に設置されている術中MRIナビゲーション統合型手術室であるBrainSuite(ブレインスイート)は、当手術の安全性、正確性を向上させるのに役立っています。また名古屋大学脳神経外科の強いバックアップを受けて、万全の体制で、安全で有効な手術を行う事ができます。もし興味があれば当院脳神経外科、神経内科のスタッフにお気軽にお尋ね下されば幸いです。

術中MRIにて、治療計画と同位置に電極が挿入されている事を確認