地域医療連携

病診連携勉強会

症例に学ぶ2型糖尿病の治療戦略

【テーマ】
症例に学ぶ2型糖尿病の治療戦略
【講演者】
糖尿病・内分泌内科 医長 江口 陽子

症例

  • 患者は60歳代の女性。血液検査ではじめて糖尿病を指摘された。
  • 初診時血圧164/91mmHg、随時血糖367mg/dL、HbA1c10.6%、総コレステロール250mg/dL、中性脂肪 436mg/dL。糖尿病、高血圧症、高脂血症治療のため入院した。
  • 身長149.5cm、体重64.1kg、BMI28.7と肥満を認めた。
  • 入院後、食事療法、運動療法に取り組んだ。
  • 入院翌日よりインスリン注射導入、超速効型インスリン(インスリンリスプロ)1日3回毎食直前皮下注 射を行った。血糖コントロール良好となったので、1週間のインスリン治療の後、インスリン投与を中止 し、ビグアナイド剤(塩酸メトホルミン)750mgの内服を開始した。
  • 薬剤師による服薬指導、管理栄養士による栄養指導を実施後、退院した。
  • 退院時 体重62.1kg(-2.0kg)、血圧122/77mmHg
  • 糖尿病合併症 網膜症なし、腎症1期、末梢神経障害なし、心電図CVR-R3.12%
  • 退院後も食事・運動療法を継続し、良好な血糖コントロールを維持(HbA1c5.4~5.5%)、塩酸メトホルミ ンも減量できている。体重や血圧のコントロールも良好。

食事療法の進め方

「エネルギー摂取量」=「標準体重」×「身体活動量」で表されます。
「標準体重(kg)」=「身長(m)」×「身長(m)」×22、「身体活動量」は体を動かす程度によって決まるエネルギー必要量(kcal/kg/標準体重)です。
この患者さんは、標準体重が1.495×1.495×22=49.17kgとなり、身体活動量は労作の程度により25~35kcal/kg標準体重の間で決定します。
この患者さんの場合、標準体重49.17(kg) × 30 ≒1475kcal、食品交換表では80kcal を1 単位とするため、1440kcal(18単位)で指導しました。また血圧も高いので塩分制限7g以下/日としました。
なお、初診時の食事指導では、これまでの食習慣を聞き、明らかな問題点がある場合はまずその是正から進めます。

食事療法の進め方

運動療法の進め方

運動には血糖低下作用のみならず、インスリン抵抗性改善、減量、筋萎縮や骨粗鬆症の予防、高血圧や脂質異常症の改善、心肺機能・運動能力の向上などの効果があり、爽快感、活動気分など日常生活のQOLを高める効果も期待できます。
当院では、カロリーカウンター(歩数と運動量を表示できる万歩計)を装着し、消費カロリーを意識しながら、院内・院外歩行、エアロバイクなどの運動に取り組んでいただいております。

2型糖尿病におけるインスリン療法

近年、インスリン製剤や注射器具の改良、簡易血糖測定器の普及などによってインスリン療法を取り巻く環境は著しく改善され、インスリン自己注射は1型糖尿病のみでなく2型糖尿病にも広く治療手段として受け入れられています。
2型糖尿病ではまず毎食前の速効型ないし超速効型インスリン注射から開始すると良いとされています。開始時のインスリン用量は実測体重1kgあたり0.2~0.3単位(8~12単位)、所要量は0.4~0.5単位(20~30単位)まで増量することが多いです。
この患者さんの場合、実測体重64.1kg⇒64.1×0.2=12.82(単位)
超速効型インスリン(インスリンリスプロ)注射を、朝4/昼4/夕4単位 毎食直前より開始し、血糖値の推移をみながらインスリン量を徐々に増量、超速効型インスリン朝8/昼6/夕6単位にて良好なコントロールとなりました。
インスリン療法により血糖値が低下してくると、急速にインスリンの効果が増強され低血糖を起こすことがあるので注意を要します。糖毒性が解除されると、経口薬療法に変更できることがあります。

2型糖尿病におけるインスリン療法

病態にあわせた径口血糖降下薬の選択

この患者さんの場合、内因性インスリン分泌は保たれており、肥満に伴うインスリン抵抗性が病態の主体と考えられましたので、インスリン抵抗性改善剤のビグアナイド薬を投与しました。
ビグアナイド薬は、単独使用では低血糖をきたす可能性は極めて低く、血糖コントロール改善に際して体重が増加しにくいので、肥満2型糖尿病例で第一選択となります。副作用として乳酸アシドーシスが挙げられていますが稀であり、適用を誤らない限り危険はほとんどないと言われています。
肝・腎・心・肺機能障害のある患者、大量飲酒者には使用しない、脱水の恐れがあるときには休薬するなどの注意が必要です。強い倦怠感、吐き気、下痢などの症状が起きたら主治医に知らせます。

病態にあわせた径口血糖降下薬の選択

糖尿病治療の目標

生活習慣病としての糖尿病は近年急速に増加しています。
2型糖尿病の治療においては、良好な血糖コントロール状態の維持し、血圧、体重、血清脂質のコントロールにより糖尿病性細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)および動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)の発症・進展を阻止し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、健康な人と変わらない寿命の確保を目指すことです。
今後とも地域のかかりつけ医の先生方との適切な連携にて、糖尿病診療のレベルアップに努めてまいりたいと存じます。ご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。