乳癌の診察について
乳癌の診断手順
乳癌は女性の悪性腫瘍罹患率で第一位となり、近年注目されている疾患です。乳癌は他の癌と異なり40歳代後半の患者が最も多く、壮年期(30~64歳)女性の悪性腫瘍死亡原因の第一位となっています。また、今後しばらく乳癌の患者は増加すると予想されています。
乳癌は大きく分けて非浸潤癌と浸潤癌に分けられます。がん細胞が乳管や小葉内にとどまっているものを非浸潤癌、反対に乳管や小葉を包む基定膜を破って外に出ているものを浸潤癌といいます。非浸潤癌は浸潤癌に移行する前の段階の癌と考えられ、以前は非浸潤癌の発見は少なかったのですが、近年、診断技術の進歩によりその割合が多くなってきています。
乳癌の診断手順としては、まず初めに、視触診、マンモグラフィ、乳房超音波検査を行います。マンモグラフィは微細な石灰化病変の検出に優れ、超音波は閉経前の乳腺が密な女性の微小な病変の検出に優れています。これらの検査によりしこりや異常所見があれば、次に細胞診や針生検を行います。これらは外来で手軽に行うことができる検査ですが、採取される細胞や組織の量が少量であるため診断に至らない場合があります。最近はマンモトーム生検が普及し、外科的生検よりも小さな傷でより多くの組織採取が可能となり確定診断に寄与しています。特に、検診で発見された微小な石灰化のみが認められる場合などの診断にステレオガイド下にマンモトーム生検を行う機会が増え、早期癌の発見につながっています。
乳癌の治療法
乳癌の治療法は手術や放射線治療などの局所治療と抗癌剤やホルモン剤などの全身治療に分けられます。腫瘍の位置、広がり、リンパ節転移の状況や患者の希望により術式や術前化学療法を行うかどうかを決定します。術式は乳房切除術と乳房部分切除術に分けることができます。乳房部分切除は腫瘍を含む一部分のみ切除をしますので乳房のふくらみが残ります。乳房部分切除を行った場合は局所再発を防ぐために、術後に残存乳腺への放射線照射が勧められます。大きな腫瘍に対しては乳房切除が行われます。もし、大きな腫瘍で部分切除を希望する場合には、術前化学療法により腫瘍を小さくしてから手術を行います。乳房切除後に乳房再建を行う場合もあります。またセンチネルリンパ節生検の導入により、以前は必ず行われていた腋窩リンパ節郭清が省略される症例も増えてきています。センチネルリンパ節生検は癌が最初に転移するリンパ節で、ここに転移がなければ腋窩リンパ
節全体に転移がないと考えられるため郭清を省略する方法です。腋窩郭清の省略は腋窩郭清の合併症である上肢の浮腫やしびれが軽減されるため、大きなメリットとなります。しかし、導入後間もないため長期的な影響に関しては未知な部分もあります。
乳癌の術後補助療法
乳癌の術後補助療法を決定する上で指標となるのが乳癌のリスク分類です。リスク分類は、年齢、腫瘍の大きさ、核異型度、脈管侵襲、ホルモン感受性、HER2の発現、リンパ節転移などにより、Low risk、Intermediate risk、High riskの3段階に分けられ、それぞれのriskにあわせて化学療法、ホルモン療法を組み合わせて治療を行います。
Low risk症例はホルモン療法を中心に治療を行い、High risk症例は化学療法を中心に治療を行います。最近では、さらにトラスツズマブが術後補助療法に加わり選択は多様になってきています。使用するホルモン剤は閉経前は抗エストロゲン剤やLH-RH agonistを、閉経後はaromatase阻害剤を使用します。抗癌剤はアンスラサイクリン系やタキサン系の薬剤をよく使用します。乳癌における術後補助療法は再発予防に重要で、術後補助療法を行うことにより再発を40%以上減少させていると考えられています。
なお、再発乳癌の治療はHortobagyimの考え方に従い、再発の状況やホルモン感受性の有無を考慮しながら治療を行います。再発した場合、根治は困難であるため患者のQOLを考慮した治療がよいと考えられます。再発後の予後も化学療法などの進歩により年々改善されてきています。
乳癌検診の重要性
乳癌の死亡率を低下させるためには乳癌検診は非常に重要です。乳癌は早期に発見されれば90%程度の確率で治癒が望めます。現在日本でも40歳以上の女性には2年に1度のマンモグラフィ検診が勧められており、マンモグラフィ検診が徐々に普及してきています。欧米では近年乳癌の死亡率は低下してきており、これは化学療法の進歩と同時に乳がん検診の普及による効果であると考えられています。日本のマンモグラフィ検診の普及率は20%程度で欧米に比べ低水準にあり、今後のさらなる検診の普及が望まれます。