地域医療連携

病診連携勉強会

膵臓がんと肝臓がんについて最近の話題
~診療ガイドラインを中心に~

【テーマ】
「膵臓がんと肝臓がんについて最近の話題 ~診療ガイドラインを中心に~」
【講演者】
外科 主任医長 井上 総一郎
井上 総一郎

はじめに

Trends in death from malignant neoplasms in Japan

日本における年間の悪性新生物の死因の上位は、①肺がん(約5万5千人)、②胃がん(約5万人)、③大腸がん(約3万5千人)、④肝臓がん(約3万2千人)、⑤膵臓がん(約1万8千人)となっています。ところが年間の死亡者数/罹患者数で見ると、①膵臓がん(98%)、②肝臓がん(93%)、③肺がん(85%)、④胃がん(49%)、⑤大腸がん(38%)となっており、膵臓がんと肝臓がんは難治のがんの代表です。100人の膵臓がん患者の内、開腹手術のできるのは40人で、あとの60人はすでに肝臓に転移していたり、腹水が貯まっていたりで手術ができません。ところが手術のできる40人の内、20人は開腹すると小さな肝転移や腹膜転移が見つかり、完全にがんの切除のできる人は残りの20人です。さらに手術のできた20人も肝臓や腹膜に再発して、5年後に生きているのは1~2人です。結果的に5年生存率は1~2%となります。それだけ症状が出るまでに進行しており、検診での発見率も低い悲惨な病気です。それでは切除できなかった80人は見捨てられてしまうのかと言うと、保険診療の中でジェムザールとTS-1という2種類の抗がん剤治療が可能となり、1~2年の延命が見込めるようになりました。銘記しておきたいことは、抗がん剤の効果は一部のがんを除いて完全治癒を得られることはまれであるということで、2~3年以上の生存を目指すには手術で切除することが唯一の治療です。また日本の肝臓がんの95%は肝細胞がんです。そしてこの肝細胞がんの80%はC型肝炎、15%はB型肝炎起因で、二重感染例もあります。C型肝炎が肝細胞がんのほとんどを占めているのが、日本のきわだった特徴で、治療成績を不良のものとしている原因の一つでもあります。肝細胞がん治療には肝切除術以外にも、肝動脈塞栓術(TAE)、ラジオ波治療(RFA)、肝動注化学療法(HAIC)、肝移植等多くのオプションを持つことができるようになりましたが、極端にいえば「非手術的な局所治療がすべて」から「手術がすべて」まで、なお意見の一致をみていないのが現状です。その中で昨年「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン」および「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」が刊行されましたので最近の話題とともに以下に紹介させていただきました。

膵がんについて

(アンスロン門脈バイパスカテーテル法)

外科治療の問題点を以下に診療ガイドラインからピックアップしました。

  • Stage IVa膵癌に対する手術的切除療法の意義はあるか?
    ⇒ Stage IVaまでの膵癌には根治を目指した手術切除療法を行うことが勧められる(グレードB)。
  • 膵頭部癌に対しての膵頭十二指腸切除において胃を温存する意義はあるか ?
    ⇒ 膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃温存による術後合併症の低下、QOL、術後膵機能、栄養状態の改善は明らかではない(グレードC)。膵頭部癌に対する膵頭十二指腸切除において胃温存による生存率低下はない(グレードB) 。
  • 膵癌に対する門脈合併切除は予後を改善するか?
    ⇒ 膵癌に対して根治性向上を目的とした予防的門脈合併切除により予後が改善するか否かは明らかではない。門脈合併切除により切除断端および剥離面における癌浸潤を陰性にできる症例に限り適応となると考えられる(グレードC)。
  • 膵癌に対して拡大リンパ節・神経叢郭清の意義はあるか?
    ⇒ 膵癌に対する拡大リンパ節・神経叢郭清が生存率向上に寄与するか否かは明らかではなく、行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない(グレードC)。
  • 膵癌では手術例数の多い施設の合併症が少ないか?
    ⇒膵頭十二指腸切除など膵癌に対する外科切除術では、手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症が少ない傾向があり、合併症発生後の管理も優れていると推察される (グレード B)。
    他にも診断法・化学療法・放射線療法・補助療法の題目に分けてクリニカルクエスチョン方式で概説されておりますので是非ご一読下さい。
    また名古屋大学病態制御外科(第二外科)で行ってまいりました腸間膜アプローチ法、アンスロン門脈バイパスカテーテル法、non-touch isolation technique法による術式や単純ヘルペスウイルスによる腫瘍融解療法の臨床試験等についても紹介させていただきました。

肝がんについて

(経皮的肝灌流化学療法(PIHP)シェーマ)

まず腫瘍マーカーの話題についてお話しました。AFPとPIVKA-IIのコンビネーションアッセイの有用性と、骨粗しょう症のお薬であるビタミンK2製剤のグラケーの内服が肝がんの再発予防に効果的であることが最近わかりました。
また肝切除術に関しては従来からのゴールドスタンダードである幕内基準の安全性の実証と、基準外の症例に対するTAEおよび門脈塞栓術(PTPE)を併用した手術の工夫を自経例でお示ししました。さらに従来からの門脈を中心とした肝切除からカラードップラー超音波を併用した肝静脈を中心とした肝切除への変遷、Belghitiのliver hanging maneuver法の導入についてお話しました。
HAICに関しては大阪大学が発信したインターフェロン併用5-FU肝動注化学療法と神戸大学が発信した経皮的肝灌流大量化学療法(PIHP)の自経例での比較検討についてもご報告させていただきました。
最後に生体肝移植の京都大学における成績についてもご紹介させていただきました。

おわりに

主に名古屋大学病態制御外科(第二外科)で行ってきた難治性がんの代表である膵臓がんと肝臓がんに対する取り組みを診療ガイドラインとともにお話させていただきましたが、名古屋セントラル病院においても同じレベルでの診療に取り組む所存でありますので、なにとぞご支援のほどよろしくお願い申し上げます。