地域医療連携

病診連携勉強会

アンチエイジング医療の現状と展望

【テーマ】
「アンチエイジング医療の現状と展望」
【講演者】
婦人科 主任医長 廣岡 孝
廣岡 孝

最近、「アンチエイジング」ということばを見ない日がないともいえるくらいの「アンチエイジング」ブームとなっています。「アンチ」とは「反する・抵抗する」を意味し、「エイジング」は「加齢・老化」を意味します。「アンチエイジング」は「抗加齢」や「抗老化」と訳され、「老化」をおくらせ、「健康寿命」をのばすことを目的とします。
しかし、この「アンチエイジング」の考え方は古くからあり、人類の有史以来からの夢である「不老」「不死」「若返り」がそれにあたり、科学技術の進歩に伴ってこの夢が現実化されているといっていいでしょう。
「アンチエイジング」を考える上で、「エイジング」のメカニズムを知っておく必要があります。現在、老化のメカニズムとしては、「プログラム説」と「消耗説」が主となっていると考えられています。
「プログラム説」とは、老化の発現あるいは老化速度が遺伝的に決められているとする考え方で、正常細胞において、細胞分裂のたびに染色体の先端のテロメアとよばれる部分は短くなり、これ以上短くなれなくなると細胞死に至るという「テロメア」説もその一つです。その説によるとヒトは120年の寿命があるといわれています。また、他の生物では「長寿遺伝子」の研究がすすみ、一部の遺伝子の型が「長寿」や「抗老化」と関係していると考えられています。
一方の「消耗説」とは本来、細胞が生きていくために必要なものが、長年にわたって徐々に消耗し、量的あるいは質的にある一定の限度を下回ったところで、細胞が機能を失ったり死んだりすることが細胞の老化であり、これによって個体の生命が維持できなくなるというものです。この消耗をコントロールしているものに「ホルモン」や「フリーラジカル」などが関与しているといわれています。「フリーラジカル」とはいわゆる「活性酸素」の一部です。この「フリーラジカル」が「細胞をさびつかせる」というように表現されています。この「フリーラジカル」は喫煙・飲酒・大気汚染・排気ガス・ストレス・紫外線・食品添加物・残留農薬などが発生源だと考えられています。
以上のことを、簡単にいうと、「エイジング」・「老化」はある程度遺伝子によりコントロールされているが、ホルモンやフリーラジカルにより変化をうけるといえます。
現在、「アンチエイジング医学」の診断としては、筋年齢・血管年齢・骨年齢・ホルモン年齢・肌年齢・脳年齢・神経年齢などを測定しています。筋年齢は体組成計を用いて、身長・体重・体脂肪・筋肉量から算出します。血管年齢は、加速度脈波を測定し血管の硬さ(動脈硬化度)から算出します。骨年齢は骨密度を測定し算出します。ホルモン年齢は血液中のホルモン値や関連物質の値を測定し、成長ホルモン、男性ホルモン、女性ホルモンなどから算出します。肌年齢はホルモン年齢で代用したり、スキャナーなどでしみ、しわ水分量などから算出したりします。脳年齢・神経年齢は前頭葉機能検査から算出します。また、免疫機能、活性酸素、酸化障害度検査も行われ、アンチエイジング度を多面的に評価しています。
以上の過程で診断したあとアンチエイジング医学の治療をおこなうことになります。抗酸化物質であるビタミンE、ビタミンC、コエンザイムQ10などを服用させます。有害ミネラルなどの排泄を促すためにキレート製剤を使用します。デトックスという言葉で最近は知られてきています。加齢に伴い低下するホルモン剤を補います。欧米では成長ホルモン療法が主流で、性ホルモンである男性ホルモンや女性ホルモンなどが使われます。DHEAやメラトニンもホルモン療法に入れられますが、アメリカではドラッグストアでも手に入れられサプリメントとして使用されています。運動療法は筋肉の若返りや代謝の若返りに有用です。有酸素運動が大事ではありますが、筋肉量の増加には無酸素運動も効果的であるともいわれています。食事療法にはカロリー制限、脂肪酸の種類やその他内容に関しては注意が必要です。カロリー制限は少なければ少ないほどいいともいわれています。食事の量が少ないほど活性酸素の発生は少ないのがその理由のようです。食事の種類も基本的には粗食といわれるものがいいようです。ストレスはやはり老化の加速因子です。極力ストレスを避けるのも1つの治療法といえます。喫煙は絶対禁止事項です。飲酒は1回あたり1合程度まで、週に3日以上は飲酒をしない日(休肝日)を設けることも必要です。肌の老化には外科的療法や局所的処置が必要となります。レーザーなどを使用してしみ・たるみなどの改善、しわには注入療法、手術も行われます。これらは美容医療であり、その医療の質・内容については引き続き十分検討しなければならない面もあります。内面と外面の双方向からの治療が必要であるというのが現在の方向です。
現在、日本ではアンチエイジングに関する研究会・学会は5つあります。一番規模の大きいのが日本抗加齢医学会で、昨年専門医・指導士試験がおこなわれました。日本臨床抗老化医学会も専門医・指導士制度を設けています。世界的には1992年にAmerican Academy of Anti-Aging Medicine (A4M)が設立され、第1回の学会は1993年に開かれました。2001年に日本で日本抗加齢医学会が研究会として第1回の研究会を開催され、2003年にヨーロッパ、2004年に中東・南米・韓国で学会が設立されました。今年、A4M認定の学会が日本ではじめて行われますが、日本抗加齢医学会でなく、日本臨床抗老化医学会が主催します。また、アンチエイジングには歯科領域の関与もはじまり、今後さらにその相互交流がすすむものと思われます。アンチエイジング医学は美容・若返りだけでなく、生活習慣病・悪性疾患などの発生を防ぐ予防医学でもあるといわれています。それは人間ドックとも共通します。今年の日本人間ドック学会のテーマにもなっています。
アンチエイジング医学は、今後予防医学として一般診療の中で発展するものと思われます。そのためにも、科学的な根拠とその質の安全性についての検討が今後必要です。