地域医療連携

病診連携勉強会

国内初のKTPレーザーによる前立腺蒸散術(PVP)の治療経過

【テーマ】
「国内初のKTPレーザーによる前立腺蒸散術(PVP)の治療経過」
【講演者】
泌尿器科 主任医長 黒松 功
黒松 功

昨年の病診連携意見交換会の際に「日帰り可能な前立腺レーザー蒸散術:PVP」と題してこの新しい前立腺肥大症に対する手術のご紹介をさせていただきました。この時にはまだあくまでもPVPを開始する予定でレーザー本体も手元にはなかったのですが、紆余曲折を経て昨年4月にこの治療を開始することができました。

レーザー装置

このレーザー装置は米国のLaserScope社製の80WKTPレーザーで、ヘモグロビンに選択的に吸収されるという特徴をもち、肥大した前立腺腺腫を効率よく、非常に少ない出血量で蒸散することが可能です。また手術に使用する膀胱尿道鏡が従来の手術(経尿道的前立腺切除術:TUR-P)に比べてかなり細いものを使用するために術後の尿道狭窄の心配がなく、手術翌日で尿道カテーテルを抜去するために排尿痛もまったくないか、あっても非常に軽度で済むという大きな利点を有しています。

これまで昨年4月から本年1月まででちょうど100名の方々にPVPを施行させていただきましたが、術中の合併症は1名もなく無事手術を施行できています。もちろん輸血を要するような出血も皆無でした。欧米では3割ぐらいの方はカテーテルを留置せずにそのまま自尿可能とのことですが、当院では念のため全例にカテーテル留置とさせていただいております。100名のうちアスピリンの内服下に手術を施行した一人を除き、すべて翌日にカテーテルを抜去しました。87名が翌日退院され、残りの13名のうち10名がご本人の希望でもう一日入院されました。カテーテル抜去後はほぼ良好な排尿状態となりましたが、神経因性膀胱などによる膀胱収縮力の低下があったり、術野の浮腫によると思われる抜去後の尿閉が9名に認められました。いずれもカテーテルの再留置や導尿にて改善しています。

当院へPVPを希望されて来院いただいた患者さんで前立腺肥大症であり、PVPの適応であると判断させていただいた場合、手術予定の3~4週間前に術前検査を行い、手術のinformed concentの後に当日入院で手術を施行しています。麻酔は腰椎麻酔で術中は患者さんにも手術の模様をモニタでご覧いただいています。

 (尿流量測定器)
(尿流量測定器)
(残尿測定器)
(残尿測定器)

術後は退院後2週、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年目に来院していただき排尿状態に対する問診をスコア化した『シンプトンスコア』や最新の尿流量測定器を用いた『ウロフロー検査』を施行しています。いずれの検査も術後初期から有意に改善し、これとともに残尿量も減少しています。残尿測定には機動性と精度に優れた超音波内蔵のシスメック社製『ブラダースキャン』を用いて患者さんに身体的負担を加えることなく検査を行っています。

これまでの100名の方々のうち愛知県内からの受診者は58名と過半数でこのうち名古屋市内が37名、名古屋市内のなかではやはり中村区からの受診患者さんが12名と最多でした。最近ではインターネットをご覧になって関東地方や近畿、山陽、九州地方からの受診も珍しくなくなってまいりました。非常に安全性が高く入院期間が短くてすむ優れた治療法なのですが、現在手術まで約半年お待ちいただく状況であり、まだ国内での治験が始まっておらず、厚生労働省の認可を得て保険診療となるまでに少なくとも2年はかかりそうなことが欠点となっています。本年中に恐らく国内で当院以外に2~3施設でPVPが導入される予定で、いずれはスタンダードな治療となると思われますが、今後も本治療をいち早く導入した施設として排尿障害に苦しむ患者さんのお役に立ちたいと考えております。

なお当院ホームページ内にPVPに関する患者さんからのお問い合わせの多い項目(費用、術後合併症等)についてのQ&Aを掲載させていただいております。ご参考までに。