地域医療連携

病診連携勉強会

先端医療による地域への貢献
~救急医療から腎移植まで~

【テーマ】
「先端医療による地域への貢献~救急医療から腎移植まで~」
【講演者】
救急科 医長 丸井 祐二
丸井 祐二
月間救急車搬入台数

名古屋駅に最も近い総合病院である当院は病床数198床で、平成15年まで療養病棟を併設しておりましたが、急性期医療を重点視する方針を立て、平成13年11月より時間外二次救急を担当するようになりました。平成16年1月から常駐救急医を一名配置し、それまでの来院ごとに適宜各科医師が診察するやり方から、救急医が救急外来に来院された患者さんを診察し、専門医と連携をとって診療を進める北米型ER(Emergency Room)を目指して救急医療に取り組んできました。この結果スピーディーに救急車搬送を受け入れることができるようになりました。また、救外を訪れる患者さんの抱える問題を系統的に整理し、病状を把握して各科専門医師に引き継ぐことは、結果的に患者さんへのサービス向上につながっていると思います。そして各科医師、病棟スタッフの救急医療に対する意識が高まり、さまざまな時間外患者さんの受け入れも拡充してまいりました。医師数は30名に満たないのですが、その分お互いが顔の見える連携を迅速にとることができ、専門医師の多角的な視点からの診察を可能にしているといえます。

救急外来にはこんな方々が搬送されています。Aさんは80代女性で主訴は頭痛です。ドーンという音に気づいた人が倒れているAさんを発見し、救急車を呼んでこの方は来院されました。来院時の意識レベルはI-2、血圧 185/100、頭痛、嘔吐ありでした。転倒時のことはまったく覚えていないとのことで、倒れた理由ははっきりしませんでした。頭部CTを撮影すると、右シルビウス裂を中心にSAHを認めました。そこで、造影CTと同じ方法で3D-CTを即座に行い、SAHの原因である脳動脈瘤が診断されました。転倒、外傷によっておきたSAHではなく、脳動脈瘤の破裂が原因であることが分かったわけです。これまでの動脈造影に比べ、迅速かつ低侵襲な診断方法のみでこの方は緊急手術をお受けいただき、良好な経過をたどられました。

救急外来でダブルルーメンカテーテルを挿入する様子

Bさんは90代男性で低体温を主訴に救急車で搬送されました。妻が買い物に出かけている間(最大4時間)に庭に出て、帰れなくなり倒れていたらしいとのことです。妻が帰ると冷たくなっており、隣人により救急車を呼ばれ来院されました。既往症として心筋梗塞、認知症、胃がん手術がありました。来院時III-300、体温約28度、瞳孔4mm、対光反射が遅い状態でした。血圧は測れぬも鼠径で脈は触れました。超低体温と判断し、酸素投与、ダブルルーメンカテーテルを挿入して持続血液透析を直ちに開始し、体深部からの加温を行いました。検査結果は、pH 7.015, K 6.0, CK>1000と代謝性アシドーシス、電解質異常、横紋筋融解症発症状態であり、これらの補正にも血液透析は有用でした。体表からの末梢の加温は、循環虚脱を招く可能性のため行いませんでした。意識状態は復温とともに改善し、横門筋融解症、再灌流障害による急性腎不全も乗り切ってICUを退室されました。

こうした内科系、外科系ともに重症患者さんを受け入れる体制作りに当院が取り組んできたことは、平成17年以降患者さんの紹介率が50%を超えるという結果につながってきました。

ボードごと患者さんが移動します

新病院ではより安全迅速な救急医療を遂行するために、日本初の救急搬送システムを開発導入します。これは、救急隊から患者さんをストレッチャーに移した後は、患者さんの乗ったボードごとスライド移動させて診察室からCT検査、そして手術室に搬送するものです。患者さんの快適さを高められるとともに、SAHや大動脈瘤の切迫破裂など、緊急性が高く、できる限り安静が求められる症例に威力を発揮するものと期待されています。先端医療をおこなうにふさわしい先端機器の導入といえます。

腎移植の流れ

先端医療のひとつとして、当院ではこれまでに生体腎移植にも取り組んできました。現在透析療法を行っている患者さんは全国で約25万人みえます。腎移植は透析によって拘束され、制限された生活を送る方にとって、大きな福音ですが、全身麻酔手術が必要なこと、生涯にわたる免疫抑制剤の内服が必要であること、ドナーからの尊い提供があってはじめてなりたつ医療であることなどのために、年間約800人程度の方が手術を受けているのみです。移植腎の生着のために重要なことは、正確な手術はいうに及ばず、拒絶反応を抑え、感染症を起こさない免疫抑制剤の微妙なバランス維持、患者さん自身の自己管理、そしてそれを支えるコーディネーターを含む移植チームのきめ細かいケアです。これらのことは移植を受けられたレシピエントのためはもちろんですが、ドナーの方の尊い意志に報いるためにも必須であると考え、日々研鑽をつんでおります。当院では経験と実績の豊富な名古屋第二赤十字病院移植外科の協力を得て、より侵襲の少ない腹腔鏡下ドナー腎摘術を取り入れ、最新の免疫抑制療法を行っています。そして症例が少ない分、1人ひとりの患者さんに時間をとって接することができる点では他施設に引けをとらないと自負しています。

まったく別の分野と思えるこれらの医療ですが、患者さんの病態の変化を速やかに察知し、多角的な視点から迅速な対応を取る必要があるという共通点があります。自分が毎日の医療に邁進する上で、最も重要なこのことは、広い視野を持ち、常に患者さんと全人的に向き合ってこそ達成されうるものであり、その結果として先端医療による真の貢献があると考えています。