地域医療連携

病診連携勉強会

低血糖~どこまで血糖を下げても大丈夫か?

【テーマ】
「低血糖~どこまで血糖を下げても大丈夫か?」
【講演者】
糖尿病科 主任医長 中江 次郎
中江 次郎

はじめに

血糖値の高い患者をどのように説得してインスリン注射に切り替えていくか,逆に低血糖をどのようにして避ければ良いのか,糖尿病の日常診療で直面する二つの大きな問題です。今回はこのうち「低血糖」についてお話ししました。

低血糖の定義

血糖値

低血糖について最初に陥りやすい誤りは,低血糖を「○mg/dl以下」というように数字で定義してしまうことです。低血糖は数字ではありません。「症状をきたすほど血糖値が低くなったもの」を低血糖と言います。「血糖値が高い」と「正常上限」の間には「高めの血糖値」があるのですから,「血糖値が低い」と「正常下限」の間にも「低めの血糖値」というレベルを考えます。症状をきたしている低血糖には必ず対応しなければなりませんが,「低めの血糖値」に対してどこまで対応するかはケースバイケースです。数字だけで判断すると対応を誤る危険があります。

低血糖の症状

低血糖症状

低血糖の症状は二つに分けられます。一つはブドウ糖不足のために中枢神経機能が低下した状態で,中枢神経症状と言われます。もう一つは,中枢神経を守るために血糖値が自律的に反転上昇しようとしている反応で,それに伴う一種の副作用を低血糖症状として感じています。これが警告症状,自律神経症状と言われるものです。警告症状の出る血糖値は個人・体調によって変わってきます。低血糖が数字で定義できない所以です。

低血糖時の対応

警告症状の出始めた時,血糖値の上昇を少し手助けするつもりでブドウ糖10gを服用すれば中枢神経症状の出現は予防することができます。この段階で対応して後遺症が残ることはありません。我慢する,様子をみるということは非常に危険なことです。ブドウ糖摂取ができない状態のときは50%ブドウ糖40mlを静注する,それもできなければグルカゴン1Aを筋注することになります。自律神経障害が進んだり,血糖の自律的な反転能力の侵されている方の場合には,早め早めにブドウ糖を投与することが必要です。また就寝前のブドウ糖投与では深夜の無自覚性低血糖を予防することはできません。必要時はブドウ糖ではなく食品交換表の表1の食品[●穀物●イモ●糖質の多い野菜と種実●豆(大豆を除く)]の摂取が望まれます。

低血糖の予防

低血糖の対応はブドウ糖の補給だけではありません。再発予防が大切です。食事・運動だけでなく,低血糖の原因として薬物療法が不適切なこともしばしばみられます。
経口血糖降下剤が原因の低血糖を減らすためには次の原則が大切です。

経口血糖降下剤が原因の低血糖を減らすための原則

いたずらに複雑な治療も低血糖の原因となります。当院での経験です。スライディングスケール法でインスリン量を毎日調整しても血糖値をコントロールできず,かえってコントロールが悪くなっていく患者を1日3回の固定インスリン療法,さらに1日2回の固定インスリン療法に変更しました。単純な治療の方で血糖コントロールが安定しているのは一目瞭然です。類似した経験をされた先生方も多いのではと思います。

グラフ

しかしどんなに工夫しても糖尿病患者の低血糖を完全に避けることはできません。ですから,低血糖を100%避けることは不可能である,軽症低血糖をできるだけ少なくする,重症低血糖は絶対に避けるという気持ちで対応すれば十分です。

最後に

血糖値を正常化することで糖尿病合併症を大きく減らせることは確認されており,日本糖尿病学会ではすべての糖尿病患者で血糖コントロールの目標値をHbA1C6.5%未満とするように勧告しています。これは非常に厳しい目標です。この目標を達成するには,すべての医療機関の医師が専門領域に関係なく「糖尿病のコントロール基準はHbA1C6.5%未満」という共通認識をもつことが大切です。糖尿病を重症化させてしまえば強い薬が必要となり,低血糖につながります。逆に早め早めの対応は低血糖を避けることにもつながります。

初診の患者およびHbA1C値が7%を超えた患者では教育入院(1週間)を視野に入れる,8%を超えたら強く入院を勧める,逆に7%を下回れば病院の外来で不必要に患者を抱え込まないということができれば,理想的な病診連携ができるのではないかと思います。