腹部画像診断~ 早期肝癌のCT・MRを中心に~
はじめに
近年、肝癌の低侵襲的治療法(経皮的ラジオ波焼灼術など)には、めざましい進歩があります。しかしこういった治療法は、腫瘍サイズが大きい場合には十分な治療効果が期待できない場合があります。このような状況下では“肝癌の早期発見”に対する画像診断の役割が大変重要になっています。
CONTENTS
- 早期肝細胞癌診断の実際(CT・MRI)
- 転移性肝腫瘍における肝臓用MR造影剤(SPIO)
- MRI“拡散強調画像”腹部への応用
早期肝細胞癌診断の実際(CT・MRI)
マルチスライスCTの登場以来、精度の高い肝臓全体の多時相造影CTが可能となり、多血性肝細胞癌の検出率が飛躍的に向上しています。当院では最新型16列マルチスライスCTを使用し、低侵襲治療の適応となる小さな早期肝細胞癌(径3cm以下)の診断に威力を発揮しています。
MRI撮像法のひとつである“chemical shift image“は腫瘍内部のわずかな脂肪成分の描出を可能とし、脂肪変性を伴うことが多い早期肝細胞癌の検出に有用です。当院ではこのchemical shift imageとガドリニウムによる全肝多時相造影検査の両者を用いることで早期肝細胞癌の診断能向上に努めています。
転移性肝腫瘍における肝臓用MR造影剤(SPIO)
転移性肝腫瘍の検出に有用なMRI肝臓用造影剤SPIO(商品名:リゾビスト)は鉄成分が主体のためヨード造影剤アレルギー、腎機能低下がある場合にも使用できます。この造影剤は静脈注射後、正常肝細胞(クッパー細胞)に取り込まれますが、正常肝細胞のない腫瘍部位には取り込まれません。MRIでは、この造影剤の取り込みの差を利用して画像化します。写真はCTでは描出できず、リゾビストによる造影MRIで指摘しえた転移性肝腫瘍です。(手術で径5mmの転移巣が確認された)
MRI“拡散強調画像”腹部への応用
MRIの特殊撮像法のひとつに“拡散強調画像”があります。この撮像法はこれまでCTでは描出できない急性期脳梗塞の診断法として用いられて来ましたが、最近体幹部への応用研究が進んでいます。拡散強調画像は主として細胞密度の高い腫瘍部位(肝癌を含む)が陽性に描出されますので、病変の拾い上げに有用と考えられます。将来は全身に用いることで検診への利用も期待されています。
おわりに
肝細胞癌の70~80%以上は肝硬変症から発生すると言う報告があり、特にB型、C型肝炎に罹患している場合は定期的な血液検査と画像診断を行うことがきわめて重要です。肝癌画像診断の一般外来での第一選択としては、その簡便性から超音波であることに異論はないと思われます。しかし超音波は腸管ガスによる画像劣化や撮影死角、撮影技量などの観点から客観性・再現性に優れた検査とは言いがたい一面もあります。放射線科では専任の画像診断医が病診連携と院内症例のすべてに関してCT、MRIの最適撮影プロトコールを作製し、肝臓のみならず全身の画像診断を迅速に行っています。今後とも当院放射線科での画像検査をご利用下さいますようよろしくお願いいたします。