地域医療連携

病診連携勉強会

消化器病の治療の進歩:ラジオ波焼灼術

【テーマ】
「消化器病の治療の進歩:ラジオ波焼灼術」
痛みなく "肝臓がんを切らずに治す"
【講演者】
消化器科 医長 川島 靖浩
川島 靖浩

ラジオ波焼灼術(RFA: radiofrequency ablation therapy)とは

豚肝臓を焼灼

肝臓がんの治療では、遠隔転移、肝内転移を含んだ腫瘍の進行度のみならず、肝臓の予備能や患者さんの状態によって実際に開腹手術ができる症例は20~30%程度でしかありません。そこで切らずに治す局所治療が広まりました。中でも昨年4月に保険適用となったラジオ波焼灼術は現在の肝がん治療の主流となりつつあります。ラジオ波焼灼治療では超音波で観察しながら直径約1.5mmの細い電極をがんに刺します。その先端部より450ヘルツの高周波(ラジオ波)を発し、がんを100度程度まで熱して殺します。

治療方法

従来は、肝臓がんに対する局所療法として、エタノール局注療法や、マイクロ波凝固療法が施行されていましたが、何度も繰り返して腫瘍を穿刺する必要があり、その効果も十分とは言えませんでした。ラジオ波焼灼術は1回の穿刺、約10分で直径3cmの焼灼が可能です。直径2cm程度までの肝臓がんであればこれだけで治療が終えることもできます。5年生存率は55%と開腹手術とほぼ同等の成績となっています。

一般的適応

  • 腫瘍径が3cm以内かつ個数は3個以内、または単発で5cm以内の例
  • 開腹手術の適応外例、または患者が手術を希望しない例
  • 門脈腫瘍塞栓などの脈管浸潤がなく、遠隔転移もない例
  • 過度の出血傾向がなく、コントロール不能の腹水がない例

治療の効果判定

肝臓がんの辺縁に5~10mmの正常組織(いわゆるsafety margin)を含めて焼灼することが最も大切です。そして、この効果判定の精度が治療効果を決めるといっても過言ではありません。当院の肝臓がんの治療効果の判定にはGE社製の最新型16列マルチスライスCTを用いて、単純な水平方向の判定のみならず、全方位の判定を行い正確な治療判定をしています。

ラジオ波焼灼後のCT画像(白い部分が肝臓癌その周囲が焼灼されて黒くのけて見える)

痛みのない安全な治療

実は、この画期的な治療法にも治療中の痛みという問題点があります。当院でも3年前に治療を開始した当時はこの痛みのために2回目の治療を拒む患者さんもいたほどです。現在は疼痛対策として麻酔科の専門医の協力を得て、硬膜外麻酔や吸入麻酔で患者さんの痛みを取り除き、術中の全身管理もお願いしております。これにより患者さんは痛みから解放され、ラジオ波治療医はがんの治療に専念でき、安全かつ質の高い治療が提供できる最高の環境にあると考えております。

治療期間

1回の治療は1時間前後です。腫瘍の大きさや数によっては2回以上の治療が必要なこともあります。初回治療時は、術前の検査を含めて1~2週間程度の入院が必要です。

肝臓がんは増加

厚生労働省のまとめでは、2003年の肝臓がん死亡者数は約3万4095人で、1975年の3倍と増加しています。肝臓がんは男性では肺がん、胃がんに次ぐ3位、女性では大腸がん、胃がん、肺がんに次ぐ4位の死亡原因となっています。この肝臓がんの原因の80%がC型肝炎であり、好発年齢が60歳以降であることがわかっています。肝臓は"沈黙の臓器"です。症状が無くても必ず定期的に腹部超音波検査や腹部CT検査をうけましょう。