地域医療連携

病診連携勉強会

日帰り可能な前立腺レーザー蒸散術:PVP

【テーマ】
「日帰り可能な前立腺レーザー蒸散術:PVP」
短期入院、術後の排尿痛なし、出血のない安全な手術
【講演者】
泌尿器科 医長 黒松 功
黒松 功

はじめに

正常な前立腺 肥大した前立腺

若いころに比べて尿が出にくい、切れが悪い、夜中に何度もトイレに起きるなどの症状で、前立腺肥大症の内服治療を受けておられる方は少なくないと思いますが、前立腺肥大症は加齢に伴う変化であり、薬でこれをもとの前立腺に戻すことは困難です。代表的な前立腺肥大症治療薬のα1ブロッカーは、肥大した前立腺で圧迫された尿道の筋肉をゆるめたり、膀胱への刺激を和らげるのがその主な作用で、ある程度の改善が見込めますが、以前のように勢いよく排尿できるように改善する唯一の方法は手術です。特に50歳代で肥大症による症状がある場合、その後の進行が早いことが多く、内服治療を続けてもいずれは手術が必要となると言われています。

とはいうものの手術には抵抗のある方も多いと思います。現在最も一般的に行われている方法(経尿道的前立腺切除術;TUR-P)では尿道から内視鏡を使って前立腺を電気メスで切除するわけですが、この方法では少なからず術中の出血があり、また術後の患部の浮腫(腫れ)および血尿のため尿道にカテーテルを3~4日間は留置する必要があります。少なくとも1週間の入院が必要で、尿の勢いは改善されますが、カテーテルを抜いたあとにしばらく排尿痛、頻尿、血尿、一過性の尿失禁等が生じます。

米国のLaserscope社という会社では高出力KTPレーザーという新しいレーザーを開発し、このレーザーを用いた前立腺肥大症の手術(PVP)がここ2,3年で欧米や韓国で急速に広まるようになりました。このレーザーは血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンという物質を熱することで組織を蒸発(蒸散)する性質を持ちます。通常、肥大した前立腺には血管が多く、血流が豊富ですが、KTPレーザーはこのような血流豊富な組織に対して有効に働き、ほとんど出血せずに前立腺を蒸散することができます。また術後の患部に対する凝固層が非常に薄いため、手術直後から排尿が可能で、痛みもほとんどありません。もちろん手術による排尿状態の改善は確実で、前立腺肥大症治療の中で最も理想的な手術といえます。

入院期間は?

今までの手術法では術後の出血や、尿道カテーテルの数日間の留置のために入院期間が最低1週間は必要でした。PVPでは入院当日手術で、翌日退院も可能です。欧米では日帰りでの手術も盛んに行われています。

術後の尿道へのカテーテル留置は何日間?

PVPでは出血や、蒸散した組織の腫れがほとんどないので、術後に尿道カテーテルを入れる時間は長くて翌日までです。約3割の方は術後にカテーテルをまったく入れずにすみます。

痛みは?

術後のカテーテル留置期間が短いことに加え、手術に使用する内視鏡も細いものを使用するために、術後の痛みがほとんどありません。

術後の男性機能への影響は?

この手術を受けてもいわゆるインポテンツの状態とはなりません。これまでの手術では6~8割に生じた逆行性射精(射精液が膀胱側に排出される合併症)の生じる確率も、PVPでは2~3割ほどと低いことが特徴です。

手術前 手術直後

まとめ

杉村教授とサンフランシスコにて(右が筆者)
杉村教授とサンフランシスコにて(右が筆者)

欧米では多くの施設で行われているPVPですが、日本ではまだKTPレーザーが導入されていないため保険適用となっていないところが唯一の欠点です。
このたびJR東海総合病院泌尿器科では、国内でいち早くKTPレーザーを導入し、三重大学医学部泌尿器科(杉村芳樹教授)の協力のもとに、前立腺肥大症に対するPVP手術を始めることとなりました。その効果・安全性については米国において多くの施設の治療成績で証明されており、また平成16年12月には当科の医師が実際に米国に赴き、PVP手術を確認してきました。
内服の煩わしさから解放され、術後の痛み・出血に悩まされることなく、以前のような排尿状態を取り戻すことが可能なこの手術をぜひおすすめ致します。この新しい手術法のPVP手術に興味がございましたら当院泌尿器科医師までお気軽にお尋ねください。