地域医療連携

病診連携勉強会

前立腺癌~早期発見とその治療法~

【テーマ】
「前立腺癌~早期発見とその治療法~」
【講演者】
泌尿器科 医長 黒松 功
黒松 功

はじめに

10年ほど前までは前立腺癌といえば発見時には前立腺周囲組織あるいはリンパ節・骨への転移を生じた状態で発見され、進行が遅いとはいうものの予後の悪い泌尿器科悪性腫瘍の一つでした。近年ではPSAの導入によりほぼ自覚症状のない段階で早期発見がなされるようになり、その治療法も多岐にわたるようになりました。今回の病診連携勉強会では前立腺癌の診断およびその特徴・治療法についてお話しさせていただきました。

前立腺の解剖および機能

前立腺は大きく4つの領域に分類され、前立腺癌の約7割が辺縁域(いわゆる外腺領域にあたります)に、前立腺肥大症が生じる移行域には約2割が発生するといわれています。前立腺の機能ですが、主なものは精液の一部となる前立腺液を分泌することです。前立腺液は、精子の運動や保護に関与していると考えられています。前立腺は、その発生から増殖・成長までのすべてを男性ホルモンに依存している特殊な臓器であり、前立腺癌も同様に男性ホルモンに依存するという特徴があります。

前立腺癌の疫学

1997年の米国男性における前立腺癌の罹患率は43%とトップで、その死亡率は14%と肺癌に次いで2位であり、米国では前立腺癌が非常に重要な病気であることがうかがえます。日本人男性における部位別年齢調整死亡率では1950年には人口10万人あたり0.5であったものが、1997年には8.2となっており、約50年の間に16倍以上増加しています。2015年の前立腺癌による死亡数は、1995年の約3倍になると推定されています。これは、すべての部位のがんの中で最も高い増加率となっています。日本での前立腺癌の増加の原因として、①高齢化②食生活の欧米化③PSA測定の導入などがあげられます。①は当然ですが、②に関しては大豆、魚肉等の摂取を意識するという予防が重要で、③50歳を過ぎたら年に一度のPSA測定で前立腺癌の早期発見を我々は勧めています。

前立腺癌の診断・検査

直腸診である程度診断がつく場合もありますが、現在ではPSA値の異常から前立腺生検を行うことで前立腺癌が発見されます。前立腺生検は、経直腸的あるいは経会陰的にbiopsy gunで前立腺組織を8~10カ所採取する検査です。仙骨硬膜外麻酔を併用する施設もありますが、当科では特に麻酔は要さずに経直腸的に施行しています。経直腸操作に伴う違和感はありますが、痛みはほとんどなく10分ほどで終了します。

前立腺癌のStaging

前立腺癌の確定診断が行われたら、次にMRI、CT、骨シンチグラフィー等を施行し病期の確定を行います。前立腺癌の病期分類にはTNM分類とWhitmore-JewettのStage分類があります。Stage分類は大きくAからDの4段階の病期に分類されています。Stage Aは前立腺肥大症の手術の際などに発見される偶発癌で、臨床的には前立腺癌と診断されない微小癌です。Stage Bは前立腺内に癌が限局していて転移がない初期癌です。Stage Cは前立腺の被膜を超えてひろがっている進行癌ですが、転移はないものです。Stage Dは、骨・リンパ節などに転移の認められる場合で、Stageが低いほど、予後は改善されStage Bでは5年生存率はほぼ100%となっています。

前立腺癌の治療

治療法は手術・ホルモン療法・放射線療法と多岐に渡ります。次にそれぞれの治療法について簡単にお示しいたします。
手術療法(根治的前立腺全摘術)は主に70~75歳までの、Stage B(場合によりStage C)の前立腺癌に対して選択されます。腹腔鏡による前立腺摘除術は一部の施設で行われていますが、保険適用ではなく、また高度の腹腔鏡技術を要しまだ一般的ではありません。この手術のポイントとして失禁の予防・インポテンツの問題がありますが、現在では前立腺とその周囲の神経血管組織が解剖学的にかなり詳しく解明され、これらの問題はほぼclearされつつあります。もちろん前立腺の皮膜への侵潤が疑われる場合(Stage C)には周囲の神経を温存できませんのでインポテンツの問題は残ります。
ホルモン療法の主旨は、男性ホルモンの分泌のコントロールです。従来は最大の男性ホルモン分泌臓器である精巣の摘除や女性ホルモン製剤の注射が第一選択でしたが、現在ではLH-RHアゴニストの下垂体への作用を利用した薬物による去勢および副腎から微量に分泌される男性ホルモンの前立腺への結合を阻害する抗男性ホルモン剤の内服の組み合わせ(Total androgen block:TAB)が主流となっています。
放射線療法は従来より行われてきた体外からの前立腺への照射に加え、現在では専用の装置を用いて、前立腺内に80?100個の永久小線源を埋め込む小線源療法(Brachy therapy)が急速に広まりつつあります。この療法は被膜侵潤のない、組織学的異型度の低い癌で、あまり前立腺が大きくない場合によい適応となります。インポテンツの合併症が手術に比べて少なく、特に欧米では手術にせまる勢いとなっています。

この他にも高密度焦点式超音波療法(HIFU)・凍結療法(Cryosurgery)・重量子線療法等様々な治療法が存在しますが、現在のところ、手術・ホルモン療法・放射線療法の上記の三療法が一般的です。いずれにせよ前立腺内に限局した、組織学的異型度の高くない癌であれば、どの療法を施行しても同様に予後は良好で、早期発見ひいてはPSA測定の重要性を我々も痛感しています。現在当科では積極的に前立腺癌の診断・治療を行っています。PSA値で異常を示す患者さんがみえましたら当科へご相談いただければ幸いです。